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きっかけはTV・ネット動画を見て練習…『ハイキュー!!』に描かれた“ありそうでなかった風景”とは?
posted2020/11/04 11:02
text by
bookish(マンガナイト)bookish
photograph by
古舘春一/集英社
バレーボールを主役に描き切ったスポーツ漫画『ハイキュー!!』(古舘春一作/集英社)の最終巻が発売されました。高校の部活から始まり、プロリーグ、そしてオリンピック出場に選手の海外進出まで、まさにバレーボールという競技そのものを主役とし、スポーツの楽しさとその競技を取り巻く世界観を魅力的な線で表現したといえます。
この作品の特徴として挙げられるのが、「メディア」との関係性です。近年のスポーツ漫画のリアリティの追求を映し、デジタルネイティブ世代でもある選手や指導者がメディアの力を使いこなす、自然な2010年代の姿が描かれています。
主人公がバレーボールを始めたきっかけは“テレビ放送”
そもそも『ハイキュー!!』の主人公・日向翔陽がバレーボールを始めたのは、街中の電気屋の店頭テレビで、「小さな巨人」と呼ばれた烏野高校の選手が春高バレーで活躍しているところを見たことがきっかけです。日向以外にも、和久谷南高校の主将、中島猛のように、自宅のテレビで「小さな巨人」の試合を見たことで、ほかの選手に比べて低い身長を空中戦のテクニックでカバーすることを思いつく選手も登場しました。また、青葉城西高校の及川徹と岩泉一のように子どものころにテレビ放送でバレーボールの試合を楽しんでいた選手は少なくありません。
日本でこれまで出版されたスポーツ漫画では「スポーツ漫画の主人公がその競技を始めた動機」として、父親や兄、親戚など身近にプロの選手がいた『MAJOR』(満田拓也/小学館)や『テニスの王子様』(許斐剛/集英社)、誰かに隠れた才能を見いだされるなど、勧誘されて始める『アイシールド21』(原作:稲垣理一郎、作画:村田雄介/集英社)『SLAM DUNK』(井上雄彦/集英社)『弱虫ペダル』(渡辺航/秋田書店)などリアルでの人との出会いが競技に足を踏み入れるきっかけとして描かれてきました。『ハイキュー!!』でも父親がプロ選手だった牛島若利や、祖父がバレーボールのコーチをしていた影山飛雄が登場します。こうした中で、日向のようにテレビなどメディアを通じて出会い、競技を始めたと明確に描かれるのはとても珍しいです。
こうしてバレーボールを始めた日向たちが、トレーニングを重ね、実力を増していくなかでも「デジタルメディアの力」を活用する描写が登場します。