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ヤクルトの「東京音頭」はロッテの応援歌だった? フライパンから“ビニール傘”へ、歌が結んだ人と時代
text by
大石始Hajime Oishi
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/11/03 17:00
「東京音頭」はヤクルトの応援歌として親しまれ、球場を盛り上げてきた。この歌が辿ってきた歴史は長い
意味はないのに歌いたくなってしまう!
「東京音頭」がスワローズの応援歌として定着した理由のひとつは、この歌が応援歌に適していたことだろう。キーとなるのは「ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ」という囃子言葉だ。作曲を務めた中山晋平は「シャボン玉」「てるてる坊主」などの童謡や「カチューシャの唄」をはじめとする流行歌を手がけたことで知られる大作曲家だが、新民謡を書く際には囃子言葉を重要視していたことを生前話している。
決して意味があるわけではないが、つい歌ってしまいたくなるようなフレーズ。そんな一節を生み出すために中山は苦心していたというが、「東京音頭」の囃子言葉もそのひとつだった。
しかも「東京音頭」の場合、イントロからAメロに入る段階で少しずつ高揚感が高まり、囃子言葉で最高潮に達するような構成が取られている。合唱することでカタルシスを得られる楽曲構成は、確かに応援歌向きだ。
歌は人と人を繋ぎ、チームとサポーターを繋ぐ
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また、「東京音頭」が東京という地域アイデンティティーと密接に結びついていた点も重要だ。先にも触れたように、この歌は人口550万人を越える東京という大都市の誕生とともに世に放たれた。以降、変わり続ける東京のテーマ曲としてさまざまな場面で歌い、踊られてきたわけだが、そんな「東京音頭」を共に歌うことは、在京球団というスワローズの地域アイデンティティーを確認することにもなる。
そして、そうした行為を通じて、応援団は特別な一体感を得ることができるのだ。
歌は人と人を繋ぎ、チームとサポーターを繋ぐ。「東京音頭」におけるそうした力は、レコード発売から87年もの歳月が経過した現在も決して衰えていない。それは驚くべきことともいえるだろう。