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ドラフトで2時間待った1年前…“佐々木朗希世代“西武・井上広輝が「自分は恵まれている」と語る理由
posted2020/11/03 17:01
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph by
Kyodo News
「あっという間でした」
そう言って昨年のドラフト会議を振り返ったのは2019年、埼玉西武ライオンズから6位指名を受けた井上広輝だ。
「今、自分は三軍で練習しているんですけど、入ったばかりのころは『キツいな』と感じていた練習が、徐々にキツくなくなっているというか……。その日、目標にしている練習量を超えることができているのを考えると『もう1年もプロで練習してきたんだな』とも思います」
何度も降りたカメラ、気を使うチームメート
“あっという間”という感覚の一方で、自分の成長を体感することで、過ぎた時間の長さに気づくという。
昨年のドラフト当日は、在学していた日大三高の視聴覚教室で、3年生の野球部員とともにドラフトのテレビ中継を見守った。井上は2年生のときに春夏連続で甲子園に出場し、一躍、スカウトの注目を集めていた。150kmを超える速球と、ピンチでも顔色ひとつ変えないマウンドでの姿は、とても2年生とは思えないほど堂々としていた。在京球団が上位指名をするという報道もあり、日大三高には10社近いマスコミが足を運んでいた。
そんな中、各球団の指名が始まった。次々に指名された選手の名前が画面に映し出されるが、井上広輝の名前は、なかなか呼ばれない。
指名の瞬間をとらえようと、井上にカメラを構えたマスコミが、12球団の指名が一旦、終わるたびに、何度もそのカメラを降ろす。
気遣っていたのだろう。井上の隣に座ったチームメートが、井上に気づかれないよう顔は正面を向けたまま、目玉だけを動かして井上の様子をうかがっている。井上は甲子園のマウンドと同様、いっさい表情を崩さないため、何を考えているのかは計り知れなかった。ポーカーフェースのまま、プロジェクターに映るテレビ映像をじっと見つめている。