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食事会場は授業中の教室のように…ドクター&広報が語る、日本代表の感染予防策と取材対応
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2020/10/30 17:02
練習中に笑顔を見せる南野拓実(右)と酒井宏樹ら。しかしこのトレーニングに合宿生活も、厳格な感染予防策が取られた
取材はどんな風に行われたのか?
メディアの仕事を助けるということは、その向こうにいるファン・サポーターに情報を届けるということだ。日本代表の試合を心待ちにしている人に情報を届けるために、どのようなメディアオペレーションが必要なのか。
「オンラインの取材を組んで、チームスケジュールの調整ができれば、テキストの記事は問題ないかもしれない。ただ、テキストだけでは報道として完全ではないから、写真や映像も無償で提供しようとか。現地と7時間の時差があるなかで、日本の新聞やTVの締め切り時間を意識しながら、パッケージとして提供できるように組み立てた」
監督と選手たちの理解を得て、取材はこんなふうに行なわれた。
選手たちは練習前の午前中に取材ルームにやってきて、セッティングされたタブレットの前に座り、画面の向こうのメディアの質問に答える。1日4人、ひとり15分の合計1時間がメディア対応に当てられた。
初日こそ、画質の設定に手間取ったり、取材時間が短かったりしてスムーズではないところもあったが、広報部はその日のうちにミーティングを行い、2日目以降のメディア対応はつつがなく進んだ。
それでも多田は、さらに改善できないものかと思案していた。
「これまでは各試合に向けて必ず全選手が一度は取材対応する機会を設けてきましたが、今回は1日4人が限度で、それ以上は難しかった。ですから、この形が完璧だったとは思っていません」
「今日の100%は明日の100%ではない」
広報部で共有されていたのは「今日の100%は明日の100%ではない」という考え方だ。その日のオペレーションに問題がなければ、次の日にはメディアからそれ以上のことを求められる。だから、わずか10日間の合宿中にも改善を試みた。そのひとつが、試合後の取材対応である。
カメルーン戦後の取材対応は森保一監督、キャプテンの吉田麻也、大迫勇也、南野拓実、中山雄太の5人だったが、コートジボワール戦後には、監督とキャプテンに加え、植田直通、遠藤航、鈴木武蔵、鎌田大地と、6人が画面の前に登場したのだ。
オンラインはふたつのチャンネルを用意し、ひとつは両監督と吉田、もうひとつは残りの選手たちとで分けて、取材対応を同時に行なった。普段の試合後にたとえれば、前者が記者会見、後者がミックスゾーンのイメージだ。
その際、監督会見のチャンネルのコメント欄に「(もうひとつのチャンネルに)◯◯選手が入ります」というメッセージを書き込み、移りたい人がいれば移れるようにした。代表チームの情報を多くの人に届けたいという思いが、細部にわたる工夫となって表れていた。