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食事会場は授業中の教室のように…ドクター&広報が語る、日本代表の感染予防策と取材対応
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2020/10/30 17:02
練習中に笑顔を見せる南野拓実(右)と酒井宏樹ら。しかしこのトレーニングに合宿生活も、厳格な感染予防策が取られた
食事会場はまるで授業の教室のように
ミーティングルームの座席はソーシャルディスタンスを意識して離された。マッサージルームはスケジュール表に選手自身が名前を書き込み、混雑を回避した。
細心の注意を払ったのは、食事会場である。感染が最も広まりやすいのは不特定多数が飲食する場である、とデータで証明されているからだ。ビュッフェスタイルはこれまでどおりだが、料理を取りに行く際にはマスクを着け、席に戻るたびにアルコール消毒をするルールにした。
食事の席も、まるで授業のように全員が前を向く席割りだった。代表合宿において食事のテーブルは、会話が最も弾む場だ。食事をしながら、あるいは、食事を終えたあと、その場で談笑したり、サッカー談義を繰り広げたりする。
しかし、今回はその場が失われ、各部屋の行き来も禁止された。コーヒーを持ち寄って映像を見るリラックスルームも設置できなかったから、コミュニケーションを深める機会が圧倒的に少なかった。
しかし、だからこそ、日本代表メディアオフィサーの多田寛の目には、練習の場やグラウンドへの行き来で選手たちが工夫しているように映った。
「約1年ぶりの代表活動ですから、選手たちもコミュニケーションがいかに大事か理解していたと思います。でも、ホテルでは自由に話せない。それで練習の時間中にコミュニケーションを完結できるように、ああしよう、こうしようと、普段よりも濃いコミュニケーションを取っているように見えました」
現場広報の仕事も大きく変わった
今回の遠征では、現場での広報の仕事も大きく変わった。
普段はチームの活動とメディアの要求とのバランスを考えながら、それぞれの目的がスムーズに進むように尽力するが、新型コロナウイルスの影響によって今回は日本から渡航したメディアはゼロ。普段からヨーロッパで活動する取材者に対しても、練習場でのインタビュー取材は設定されなかった。
日本に残って広報活動を取りまとめたJFA広報部・部長の加藤秀樹は、どういう事態が起こり得るのか想像することから始めたという。
「各社で海外出張が禁止されていたので、記者やフォトグラファーが日本から出張することは難しいと考えた。欧州で行われた他のスポーツ大会の状況を聞くと、欧州に駐在しているメディアでも取材できない場合があるという情報もあった。現地で取材をするメディアが誰もいないという可能性もあったし、日本に残るメディアが取材活動の中心になることは間違いなかったので、どういう環境を作れば、メディアの仕事を助けることができるだろうか、と」