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駅伝強豪校の「“囲う”師弟関係」が変わる 高校記録ランナー石田洸介が大迫キャンプに参加した“本当の価値”
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byShota Matsumoto
posted2020/10/29 17:02
群馬・東京農大二高3年の石田洸介と陸上部顧問の城戸口直樹。撮影は石田の所属クラスの教室にて
石田は指導者の城戸口に自分の意志をしっかり伝え、城戸口も生徒の石田の考えを汲み取ろうとしているのだ。高校駅伝の強豪校といえば、勝手ではあるが、上意下達が基本のチームが多いイメージを持っていたので、なおさらそう感じた。
福岡出身の石田が、遠く離れた群馬の高校に進学したのも「上から縛りつけられるのではなく、自分の考えをしっかり持って、先生と話し合って良い方向に向かっていきたいという思いがあったから」と、城戸口の指導方針に共感したからだった。
俺はこういうふうに考えているけど、お前の意見はどうだ?
たびたびジュニア世代のオーバートレーニングが問題視されるが、3000m中学記録保持者の石田が大きなケガに見舞われることなく、二度も高校記録(5000m)を塗り替えるなど順当に成長できたのは、指導者との対話ができていたことも大きな要因だろう。
「高いレベルまで上り詰める選手というのは、自分自身のことをよく知っている。だから、石田には、私のほうから“どうしたいの?”と質問したり、自分の考えを伝える時にも“俺はこういうふうに考えているけど、お前の意見はどうだ?”と聞いたりするようにしています。
でも、“自分で考えなさい”と言ったところで、それができる生徒とできない生徒がいるのが実情です。とはいえ、型にはめるやり方にしちゃうと、石田のような選手は窮屈さを感じると思いますし……。そこが高校の指導現場の難しさですよね。いまだに、そこに葛藤しています」(城戸口)
成長の途上にある高校生が自分の考えを持って行動できるかというと、全員がそうとは限らないのも実情だ。だが、練習前のウォーミングアップやレース時のペース配分などを各自に決めさせたり、長年伝統だった丸刈りを廃止し髪形を自由にしたりと、城戸口は生徒に主体性を求めている。
城戸口と石田との関係性を特別と見るのか、はたまた、これからの陸上長距離界のモデルケースと見るのか。高校駅伝の指導の現場でも、指導者と選手との関係性が大きく変わりつつあることだけは確かに感じた。