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元“公務員ランナー”川内優輝33歳「今年はレースがなさすぎて…」あの国家資格試験に合格していた
posted2020/10/30 17:05
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph by
Kiichi Matsumoto
川内優輝というのは「どこまでも予定調和を許さない男」であるらしい。一緒に取材した川内をよく知るS記者がそう言っていた。
レースを絞ってピークを合わせる実業団ランナーとは異なり、ありとあらゆるレースに出まくって大会そのものを練習の場とするのが“川内メソッド”。それが大会がことごとく中止となった2020年にどのように走っているのか。「RUNの新常識」をテーマにした10月29日発売の『Number Do』では、“川内メソッド”が使えない川内の「トレーニング内容」にスポットを当てた。
じゃあ、撮影しちゃいましょう!
取材は埼玉県内の公園で練習風景を撮影し、練習が終わるのを待ってから別の場所でインタビューを行う段取りになっていた。現場で落ちあって、挨拶を済ませると川内が言った。
「それなら撮影をして先にインタビューしちゃいましょうか」
それを聞いてホッとした。川内の練習がいったい何時間かかるものなのか、1時間ぐらいだろうと思いつつも確かなことはわからない。次の取材場所の予約時刻のこともあって内心ひやひやしていたからだ。
取材がとんとん進むことほど喜ばしいことはない。じゃあ、撮影しちゃいましょう!と勢いこんでランニング風景を撮影し始めた。
「あれ?」消えていった川内
「川内さん、お願いしまーす!」
走り出した川内。しかし、走り出したと思ったら、そのまま公園の周回コースの彼方に消えていった。あれ、撮影だけして移動するんじゃなかったっけ……。
普通であればーー。カメラマンの前を何往復かしてもらって、「もう1回お願いできますか。ここを通るときは目線はこっちで」みたいなやりとりをして、それっぽい姿を撮影するもの。どうやらそうではなかったらしい。
「川内はどこまでもガチやからな……」
一緒に取材した川内をよく知るS記者は、その背中を見送りながらうれしそうに言った。
走り続ける川内を待ち構え、カメラマンはピンポイントでシャッターを切る。“作り写真”なんてなしだ。
いつ止まるものかと最初の数周は急いで何カットも撮ったのだが、しばらくしても川内は止まらない。我々の撮影のために走り続けてくれているのか、純粋に練習で走り続けているのか。もうまったくわからなくなっていた。