Number Web MoreBACK NUMBER
ドラフト制度をどう思いますか? Jリーグのスカウトに聞いてみた「気乗りしないクラブで活躍は…」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byYuki Suenaga
posted2020/10/27 20:00
2018年ドラフトで藤原恭大を引き当てガッツポーズするロッテ・井口資仁監督。自由競争のJリーグでは見られない光景だ
ドラフトがあっても戦略は変わらない。
現在、ヴァンフォーレ甲府でスカウトを務めるベテランの森淳氏も、キャリアが浅かった頃はドラフトを羨ましく思ったことがある。主にスカウトとして、ベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)、ベガルタ仙台を渡り歩き、多くの選手獲得に関わってきた。
「ペーペーの頃は経験のあるスカウトの人たちと争っても勝ち目がないと思っていました。それなら、クジ引きで一番最初に選びたいと。年齢を重ねて、その考えも変わり、自分で何とかしたいと思うようになりました。ドラフト1巡目の5、6人は獲得するのが難しくても、自分のなかで“これ”という磨けば光る素材を探してきて、育てていければいい。僕ら地方クラブが人気の1位候補を指名しても、『社会人に行きます』とか言われそうですしね」
仮にドラフトがあっても、スカウトの戦略は変わらない。強豪クラブが1位に指名しないような選手の“1本釣り”だ。時間をかけてプレーの質をチェックし、選手に納得してもらってからオファーを出す。
「選手は気乗りしないクラブでは活躍できませんから。メンタルの部分は、プレーに大きく影響を及ぼします」
地方クラブなりの口説き方。
資金力の乏しい地方クラブには、それなりの口説き方がある。
「サッカーの場合は野球と違い、移籍がスムーズですからね。新卒で入っても、活躍すれば2、3年で大きなクラブへ移ることもできます。優勝を争う強豪クラブで試合に出るまで2、3年出場機会に恵まれないのであれば、こちらですぐに試合に出る方法もあります。どちらが成長できますかって。やはり、選手は試合に出てこそ伸びるんです」
甲府を経由して、大きな目標に向かっていく形もある。クラブにとっても彼らが成長し、移籍金を残してくれればメリットはある。かつて佐々木翔と稲垣祥がサンフレッチェ広島へ羽ばたき、現日本代表の伊東純也は柏レイソルを経てベルギーのヘンクまで飛躍した。森スカウトは、いまでも彼らの活躍に目を細める。
「ほかのクラブでも活躍してくれるとうれしいし、そこで優勝してもらいたいと本気で思っています」
サッカー選手としての成長を心から喜んでいるようだ。
ドラフトにドラマがあり、その続きの物語があるように、サッカーもそこは同じである。