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『ハイキュー!!』のおかげで浸透中? バラバラなバレー用語に一石を投じた名将の存在
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byAFLO SPORT
posted2020/09/28 07:00
『ハイキュー!!』が参考にしたという『バレーペディア』は、名将アリー・セリンジャーから影響を受けたものだった
なぜバレー用語は浸透しない?
では、なぜバレーボールの用語は、浸透するまでに長い時間を要してしまったのか。バレーボール学会の河合氏は語る。
「バレーペディアを作ったときに、『ぜひこれを使ってください』という意味も込めてバレーボールの中継を行うテレビ局に送ったんですよ。そこから徐々にレセプションやディグといった用語を使ってくれるようになりました。ただ、うちの大学の生徒もいまだにレセプションのことを“キャッチ”と言ったりしますし、もはや方言のように根付いているものだと考えています。我々は、提案はしますけれど、それを使うかどうかはそれぞれの判断ですから……」
現在もなお、サイドから攻撃するアタッカーを「ウィングスパイカー」と呼ぶか「アウトサイドヒッター」と呼ぶかで意見が分かれている。
トヨタ車体の印東監督は語る。
「セリンジャーさんが用語を使っていたのは、コミュニケーションを楽にするためだったと考えています。うち(トヨタ車体)も今、セリンジャーさんが使っていた専門用語を使っていますが、新入団選手も、移籍してきた選手も、何度か説明すれば理解し、プレーに反映できています。ということは、そのほうが選手たちにとっても、わかりやすいのだと思います」
専門用語は、それを使う人の認知のずれを防ぎ、プレーする人、見る人に共通認識を持たせる役割を担っている。指導者にとっても、選手にとっても、そして見る人にとっても、専門用語がさらに広まり、かつ統一されたほうが便利であることは事実だ。
しかし現在、日本の指導現場ではプレー中に使う言語や用語統一の重要性はあまり語られていない。
『ハイキュー!!』の連載が始まった2012年以降、コミックの人気もあって高校の男子バレーボール部員がわずかではあるが増加したという話を聞く。コミックと現実がシンクロし始めている今、『ハイキュー!!』によって改めてスポットライトが当たった「専門用語の統一化」という課題を、バレーボール界がどう未来につなげていくのか。現実世界が担う責任は大きい。