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戦略家・錦織圭、戻らぬ感覚と新たな引き出し 13カ月ぶり四大大会を復調の契機に
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2020/09/26 17:00
全仏オープンの前哨戦では1勝のみに終わった錦織圭。果たして全仏ではどのようなプレーを見せてくれるか
「もっとネットに出たい」という方向性
当時と故障の部位は違うものの、あのとき半年以上かけて取り戻した感覚が、3大会で戻ったとしたら出来すぎだろう。ハンブルクの開幕前に「今年は一歩ずつ。フィジカルもテニスも100%に戻るには時間がかかるのは間違いない」と話したように、きっかけを求めつつ、長期戦も覚悟しているのが現状だ。
もちろん、漫然と時を待っているのではない。数試合しただけだが、プレーの上で変化も見られる。ツアー離脱中、新たに契約したマックス・ミルヌイコーチの指導なのか、ネットを取る頻度が増えている。
復帰後初勝利となったローマの1回戦では、2セットで14回ネットを取り、12回が得点につながった。敗れた2回戦では、21回ネットを取って14回得点した。あとで「少し出すぎたかもしれない」と話したが、「もっとネットに出たい」という方向性は明確だ。
ガリンもその1人だが、若い世代を見回せば、おしなべてストロークは力強く、かつ粘り強い。打ち負かすには、ネットプレーを含めた総合的な技術力が問われる。そもそも錦織は男子ツアーでも有数のネットプレーヤーなのだ。
ファーストもセカンドサーブも打ち分けて
もう1点、これもミルヌイコーチの指導による変化と思われるのが、サーブのコースの打ち分けだ。4試合を見ただけだが、ファーストサーブもセカンドサーブも、以前に比べ、きっちりコースを打ち分けている。
データのサンプル数が少なく、あくまでも参考程度にとどめるべきだが、見た目の印象を補足するデータもある。以下は今季の数字と、1シーズンほぼフルに参戦した2018年との比較(ATPツアー公式サイトより)だ。
アドコートでのファーストサーブでは、ワイドに打ったケースが64.9%(18年は48.5%、以下同)、Tエリア(いわゆるセンター。サービスラインとセンターラインが「T」の字に交わる区域)が29.7%(35.8%)、ミドル(サービスボックスを3分割した中央)が5.4%(15.7%)――ミドルを減らし、左右への打ち分けを優先している。
決して得意でなかったワイドへのサーブが増え、しかも79.2%のポイント獲得率に結びついている。これはサーブ自体の改良の成果でもあるだろう。
次にデュースコートでのセカンドサーブ。これをワイドに打ったケースが50.0%(19.0%)、Tエリアが39.3%(60.1%)、ミドルが10.7%(20.9%)――Tとミドルが大きく減り、ワイドが増えた。ファーストサーブで効果を見せるワイドサーブをセカンドサーブでも使おうという狙いか。
センターからミドルを狙い、高く弾ませて(右利きの)バックハンドの高い打点で打たせるセカンドサーブに頼っていたのが過去の錦織だが、相手のフォアとバックに打ち分けようという意図も見てとれる。
また、アドコートでセカンドサーブをTに打つケースも33.3%と、18年の15.6%から倍増している。デュースコートでの打ち分けと同様の狙いか。