テニスPRESSBACK NUMBER
戦略家・錦織圭、戻らぬ感覚と新たな引き出し 13カ月ぶり四大大会を復調の契機に
posted2020/09/26 17:00
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Getty Images
錦織圭が1ゲームも取れずにセットを落としたのは、2018年ATPファイナルズでのケビン・アンダーソン戦以来の屈辱だった。第2セットは盛り返したが、世界ランキング22位のクリスチャン・ガリンは隙を見せず、0-6、3-6のストレート負け。全仏前哨戦のハンブルクは初戦敗退に終わった。
「一戦ずつやるだけ。たくさんテニスができればいい。(結果についての)自分への期待はない」と臨んだ大会だった。
右ひじの手術と新型コロナウイルス感染を経て、2週前のキッツビュールで約1年ぶりにツアー復帰。次週のローマで復帰後の初勝利を挙げたが、続く2回戦で18歳のロレンツォ・ムセッティに完敗するなど、本調子には遠かった。
初勝利のあと「勝てたのが大きい。まだ完璧ではないが、1つずつよくなっていけばいい」と話したように、まずは多くの試合をこなして心技体を元の状態に戻すことが必要だった。しかし、わずか15ゲームをプレーしただけで大会を去ることになった。
思うように動かない体と、コートに収まってくれないボールに対する苛立ちをなんとか抑え込み、最後まで勝利を目指したことだけが収穫か。22位はカムバック後の対戦相手では最上位。グラウンドストロークは力強く、人一倍の粘りもあって、手探り状態の錦織のかなう相手ではなかった。
根本はショットの感覚がまだ……
気になったのは動きの鈍さだ。相手の攻撃に対する反応がほんの少し遅れる。ショットに対する読み、すなわち、頭の中に刻んだデータと相手の所作から導き出す予測が十分に機能しなかったのか。
3週続けて大会に臨んだ疲れもあったと思われる。パンデミックによるツアー中断の時間を使い、トレーニングを積んだが、自身のウイルス感染で体力の蓄積を減らしたのかもしれない。
ウイニングショットを決め損なう場面も目立ち、チャンスを何度もふいにした。試合勘という曖昧な言葉を使ってもいいのだが、根本はショットの感覚が万全でない、したがって自分のプレーに自信がない、というところに行き着く。