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錦織圭の勝負強さは生きていた 全仏“劇場フルセット”で「A lot of focus」覚醒
posted2020/09/29 18:00
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Hiromasa Mano
錦織圭の全仏オープン1回戦は、フルセット、3時間49分の大熱戦だった。本人が振り返ったように「すごくアップダウンがある試合」となった。
主導権を握ったと思えばまた相手に譲り渡す、その繰り返しだった。何度もチャンスを逃してみずから混戦を招いたとも言える。それでも、勝ったのは、つい先週まで試合勘もショットの感覚も取り戻せずに悩んでいた錦織だった。
「A lot of focus」
試合後、英語での質疑応答で錦織が発した言葉だ。
彼の日本語のボキャブラリーに当てはめれば、「すごい集中してましたね」くらいの感じだろうか。
集中はもともと得意だが、9月にツアー復帰してからの3大会ではこの特質が発揮されなかった。集中し、感性が研ぎ澄まされて、自然にギアが上がる感じを久しぶりに味わったのではないか。大事な場面で最大限に集中できたこと、その感覚を思い出したことが、今の錦織には最大の収穫だったはずだ。
集中を妨げる要素は数多かった
集中を妨げる要素は、これ以上ないというほど多かったのだ。断続的に霧雨が降り、短い中断もあった。風も強く、試合開始時の気温は摂氏10度を少し上回るくらい。試合後、錦織は「ボールが飛ばなかったり、体が動かなかったりというのが多々あった」と明かした。
水分を含んだ赤土は球足が遅く、ボールも水を含んで重くなり、飛ばなくなる。しかも、相手のダニエル・エバンズはバックハンドのスライスを多用し、錦織は得意の速いテンポのラリーに持ち込めなかった。
なにより、自身の調子の問題が大きかっただろう。復帰後の3大会で1勝3敗と、本来のプレーは戻っていない。ボールをしっかりたたく感覚が戻らず、したがって自信も持てない。手探り状態で挑む、1年ぶりの四大大会だった。