“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
名門・前橋育英の14番がまたJリーグへ 名伯楽や先輩から学び、次はイニエスタの横で
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/09/18 17:00
来季からのヴィッセル神戸内定を発表した前橋育英の櫻井辰徳(3年)。練習試合ではイニエスタの横でプレーをした
櫻井の魅力は「学ぶ姿勢」
何より魅力なのは櫻井の人間性である。
決して目立つことを好むタイプではないが、しっかりと人や物事を観察し、見習うべきところを抽出して、有益な学びを引き出す。これまで多くの中高生と接してきたが、大成する選手はこの姿勢を必ず持ち合わせている。プロサッカー選手としてキャリアを積み上げるうえで欠かせない重要な要素なのだ。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、将来への不安と進路に悩みにぶち当たった櫻井だったが、神戸入りを決める過程でその力は大いに役立っていた。
憧れの14番、2年生で背負うも……
櫻井にとって昨年の1年間は「14番」の重責と戦うシーズンだった。
前橋育英が選手権で準優勝した試合を見ていたのが、小学校6年生のとき。その舞台はずっと憧れの場所だった。
「準決勝の流通経済大柏戦で0-1の試合終了間際に、徳真さんが起死回生の同点ゴールを挙げて、PK戦の末に勝ったんです。その姿を見て、前橋育英の14番はチームを救える選手だと思いましたし、そうなりたいと思ったんです」
憧れは現実のものとなる。前橋育英の門をたたいた櫻井は成長を続け、高校2年生ながら14番を託される存在にまで上り詰めた。
しかし、その年のインターハイは初戦敗退。選手権では直前の練習試合での怪我が悪化し、初戦はベンチ外。チームは神村学園の前にPK負けを喫したことで、出場は叶わなかった。櫻井はベンチの裏のメインスタンドのコンコースから戦況をただ見つめることしか出来ず、ジャージ姿のまま涙を流した。
悔しい経験が飛躍のきっかけとなった
「先輩たちは逆に励ましてくれました。でも、1学年下だとはいえ、14番がピッチにいない時点で僕は『チームに迷惑をかけた』としか思っていません。14番をつけている以上はピッチに立って、チームを勝たせないといけない。なのに、インターハイでは結果を残せず、選手権はピッチにすら立てなかった。僕は徳真さんや14番の偉大な先輩たちのようにチームを勝たせられる14番ではありません。しばらくこの敗戦を引きずってしまいました」
この経験は櫻井のプレーの精度をグッと引き上げた。9月4日のプリンスリーグ関東開幕戦の矢板中央戦では、密集地帯でも浮き球やスピードあるボールをワンタッチで正確にコントロールして、しっかりと相手を引きつけてから配球。スルーパスやクサビのパスは目を見張るものだった。