“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
名門・前橋育英の14番がまたJリーグへ 名伯楽や先輩から学び、次はイニエスタの横で
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/09/18 17:00
来季からのヴィッセル神戸内定を発表した前橋育英の櫻井辰徳(3年)。練習試合ではイニエスタの横でプレーをした
驚いたイニエスタのスルーパス
今年3月には神戸から練習参加の打診を受け、5日間参加した。櫻井はそこでも“学び”を得る。
「プレースピード、ボールスピードが全然違った。イニエスタ、サンペールという世界的な選手や、山口蛍さん、酒井高徳さん、古橋亨梧さんという日本でもトップクラスの選手たちがしのぎを削っていて、もう圧倒されました。特にイニエスタは同じポジションで、体の入れ方、ドリブルの緩急、そして見ている場所が全然違って驚きの連続でしたね」
練習参加の最終日に行われたJ2ファジアーノ岡山との練習試合。ベンチスタートの櫻井はピッチ上のイニエスタを注視していた。ハーフライン手前。相手ゴールに対して背を向けてたまま、バックステップを踏みながら斜めのパスをもらおうとしたイニエスタに、岡山の選手は背後から猛然とプレスをかけた。その瞬間、イニエスタはその姿勢のままワンタッチで30m先の裏のスペースに走り出した古橋へスルーパスを通した。
「あの体勢でいつあそこを見て、なぜそのタイミングで正確に出せるの?と。これが世界トップレベルかと、本物を見た気がしました。イニエスタと自分を比べること自体、おこがましいことですが、僕が目指すものはここにあると思ったんです。
紅白戦では10分程度ですが、イニエスタとコンビを組むことができました。隣に並んだ時、立っているだけでちょっと意識が変わりました。
外から試合を見ていても佇まいすらも違うんです。それほどに違いが出せる選手になることができれば、チームを勝利に導ける存在になれると思うんです」
自粛期間を奮い立たせてくれたもの
練習試合のあと、トルステン・フィンク監督と三浦淳寛スポーツディレクターから「スルーパス、ポジショニング、味方を生かすプレーは良かった」と褒められ、その場で再度、練習参加の要請を受けた。
「次の練習参加で絶対に内定を勝ち取ってやる」
そう意気込んでいる矢先に新型コロナウイルスが襲ってきた。すべてのJクラブにとっても、有望選手の練習参加を要請できない状況に陥り、スカウト陣たちが新人選手を見極める高校、大学サッカーの場も奪われた。櫻井自身もプリンスリーグの延期、インターハイの中止など公式戦の機会がなくなり、自粛生活を強いられた。
「同級生が続々と進路を決めていく中で、僕はもう一度、練習参加しないと決まらない。その1回がいつになるかも分からない。どうやって決めればいいんだと不安な日々が続きました。先が見えない恐怖が一番大きかったです」
そんな中、櫻井を奮い立たせてくれたのが、先輩・秋山と清水エスパルスでプレーするDF金井貢史の存在だったという。
秋山は先輩として「必ず誰かが見てくれているから頑張れ」と常に気にかけてくれた。以前から交流があった金井からは「目指すところは変わらないから、自分の目標としているところにどうすればいけるかを考えて、それに見合った行動をすれば、必ず目標は達成できる」と言葉をかけられ、ともに今も大切に櫻井の胸に刻まれている。
「『これで自主トレを頑張れ』と、金井さんが心拍数を測るアップルウォッチを送ってもらいました。自主トレの度にそれを見て『頑張らないといけない』と奮い立っています。本当に裕紀さん、金井さんには感謝しかありません」