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巨人歴代最高1066勝 原辰徳が明かす、川上哲治と共有する「宮本武蔵『空』の思想」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/09/09 21:15
巨人軍の指揮官として川上哲治氏に並ぶ歴代最高の1066勝を挙げた原辰徳監督。これからどれほど記録を更新するだろうか。
固定観念に囚われず、新しいものにチャレンジ
ブロックサインやバントシフトなどドジャースの戦法をいち早く取り入れ、1961年には実際にロサンゼルス・ドジャースとフロリダ州ベロビーチで合同キャンプを実施し、練習法や作戦について徹底的に学んだ。当時の日本球界では思いもよらない画期的な挑戦だった。
そして結果的にはそのときに川上さんが日本に持ち込んだ野球が、その後の昭和から平成に至る日本球界のスタンダードを形作るものとなっていく訳である。
そういう先駆の精神、固定観念に囚われず、失敗を恐れずに新しいものにチャレンジしていく精神は、まさに原監督の指導者としての原点にあるものと同じだった。
最終巻で説かれる「空」の思想に惹かれる
そんな2人の思考をつなぐ源の1つに、江戸時代の剣豪・宮本武蔵が残した戦いのバイブル『五輪書』がある。
「地の巻から始まって水、火、風、空の巻で構成され、戦いに勝つことをストレートに追求し、物事に対処していく方法、考えを、教えてくれる書です。策略、計略で戦わずして勝つことを求める『孫子の兵法』とある意味、対極の戦いの書であり、私はどちらも何度も読み返して、読むたびに新しい発見がありました」
原監督が『五輪書』の中でも惹かれる1つが、最終巻で説かれる「空」の思想だった。
武蔵はこの「空」の思想を「武士道に精通し、心に迷いなく『智力』と『気力』を磨き上げ『観』と『見』の2つの目を研ぎ澄ますことで一点の曇りもなく迷いが晴れたら、そのときこそが真の空であると知るべき」と規定する。
この「空」の思想には川上さんも、その著書「常勝の発想 宮本武蔵『五輪書』を読む」の中で触れている。
江戸時代に流行った道場剣術と武蔵の実戦的な剣術を比較し、型を追い求めるばかりで満足した道場剣術を「棒振りダンス」と揶揄。「形式主義は堕落のもと」と型ばかりを追い求め、固定観念に縛られて立ち止まることを強く戒めている。