「川上さんの教え方はちょっと変わっていましたね」

　そんな縁もあり巨人入団直後に、川上さんから何度か直接、打撃指導を受けた経験も忘れられない思い出の1つとして残っている。

　旧多摩川グラウンドには土手を挟んで小さな室内練習場があった。選手時代の原監督は調子を崩すと試合前に、そこでマシン相手に打ち込みを行ってから後楽園球場に向かうのが日課だった。するとある日、川上さんが室内練習場にやってきたのだ。

「川上さんの教え方はちょっと変わっていましたね」

「保守的」とは別の監督像

　原監督はこう思い出を手繰り寄せる。

「インコースの身体のすごい近いところにマシンのボールの軌道が合うようにセットして、それを『打て！』と。身体が開いたら打てない。きちっと左の壁を作って打ち返す技術を教えていただいた訳です。

『いまのはよかった！』『もっと左肩を我慢して！』とか。独特な熊本弁まじりの声はいまでも耳に残っています。川上さんと話をすると常に心、心構えから入って信念、覚悟、厳しさが伝わってくる。そんな話し方をされる方でした」

　監督になってからも何度か食事をともにしたが、川上さんの体調が優れなくなり、次第に話をする機会もなくなってしまった。

「川上さんの野球といえば『石橋を叩いても渡らない』と言われたように、手堅い守りの野球、ある意味、非常に保守的というのが世間のイメージかもしれません。でも、私の中の川上さんにはもう1つ、別の監督像というのがあるんですね」

　それは時代の流れに先駆け、新しい野球のスタイルを築き上げた先駆者としての監督像だった。

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