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巨人歴代最高1066勝 原辰徳が明かす、川上哲治と共有する「宮本武蔵『空』の思想」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/09/09 21:15
巨人軍の指揮官として川上哲治氏に並ぶ歴代最高の1066勝を挙げた原辰徳監督。これからどれほど記録を更新するだろうか。
原監督が挑む“新たなスタンダード作り”
「『空』が何かを知りたければ『勝つ道理が理解できたら、一度、その道理から離れると良い』と武蔵は説きます。もちろん戦っていくための土台となる知識、方法論、野球で言えば戦略、戦術の知識を学び、状況を判断し、選手の力を見る眼力も必要です。
ただ、それだけに固執するのではなく、常に新しいものにアップデートしていく臨機応変さ、縦横無尽さ……。弛みなく前進する心があって初めて、その先に武蔵の説く『空』の世界は広がっているのだと思います」
そう語る原監督が挑むのも、いまの野球を進化させることによって生まれる日本球界の新たなスタンダード作りだった。
3度目の監督に就任した昨シーズンの坂本勇人内野手の2番起用。巨人の成功が一気に火をつけた最強打者の2番起用は、今季の日本球界では新たなオーダーのスタイルとして多くのチームが取り入れるようになった。
今年も先発投手の中5日起用を模索し、物議を醸した増田大輝内野手の投手での起用なども、これまでの日本球界の“常識”では、なかなか踏み込めない新しい試みだった。
そういう意味では原野球とはオーソドックスな野球をベースにした新たな野球観、新しい戦術、戦略への挑戦でもある訳だ。
ジャイアンツの偉人であり近代野球の父
それはまた昭和の時代に川上さんが歩み続けてきたのと同じ道でもある。
「勝ち星、数字という部分では偉大な先輩に追いつけたというのは大変、光栄なことだと思います」
巨人歴代トップに並ぶ監督通算1066勝目のウイニングボールを手にした原監督は記録達成の喜びとともに、静かに川上さんへの思いをこう続けた。
「ただ川上さんは恐らく今後も誰も破ることのできない、9連覇という不滅の記録を成し遂げた偉大な監督です。ジャイアンツの偉人であり近代野球の父として、私にとってはこれからも尊敬し目標とする大先輩であり続ける存在ということです」
2人は誰よりも勝つことに貪欲であり、貪欲であった――そのことが「1066」という数字の礎にある。
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