野球善哉BACK NUMBER
各校の采配に思う「甲子園の価値」。
勝利か、引退試合か、それとも。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNaoya Sanuki
posted2020/08/26 07:00
倉敷商の梶山和洋監督は、この大会に例年以上の意義を感じた監督の1人である。意外とそういう監督も多いのではないだろうか。
明豊の選手起用は見事だった。
一方で、最も説得力のある選手起用を見せたのが、ベンチ入り20人全員を起用したうえで、試合にも勝利した明豊の川崎絢平監督だった。
「何よりも優先すべきところは勝負なので、勝ちにこだわるのが一番と考えていました。勝ちにこだわらなければ、選手全員を使ったところで意味はないと思います。ただ、いろんな選手が陰で努力しているということを知っています。この舞台に出してあげることがたくさんの方々への感謝の気持ちを示すことになる」
そう語った川崎監督は、県岐阜商との試合にベストメンバーをスタメンとして送り出した。
5回までに3点をリードすると、そこから少しずつ選手を交代させていく。4回に1番打者の狭間大暉に代打を送り、7回裏の守備から4番の小川聖太を下げ、8回表の攻撃時にエースで主将の若杉晟汰に代打を送った。いわば、チームの中心人物を段階的に交代させていった。そして、9回裏の守備で、20人目を出し切ったのである。
3年生の記念起用に収まらず、2年生もしっかり経験を積むことができた。9回に登板した2年生投手・太田虎次朗がホームランを打たれたが、その悔しさも来年以降に生きるだろう。
高校野球界はどこへ向かうべきか。
日本一を決めるわけではない大会に、指導者はどんな価値を見出したのか。
明豊の川崎監督や智弁和歌山の中谷仁監督の采配からは、甲子園を通じて何を成し遂げたいかが伝わってきた。
今大会、公立校として最初の勝利をあげた倉敷商の梶山和洋監督はこう語っている。
「優勝につながらない試合では、選手たちのモチベーションが下がる大会になる可能性があった。その中で力を発揮するには、人間的な強さが必要だったと思っています。その中で仙台育英に勝つことができて、例年の大会よりも価値がある1試合になりました。この経験を後輩たちに伝えていけたらなと思います」
コロナ禍に振り回されたシーズンではあったが、甲子園を舞台に繰り広げられた1マッチの対決を見て、高校野球界はどこへ向かうべきかを考えさせられた。