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「9秒98では新聞1面にならない」
桐生祥秀が語る日本の100mの今。
posted2020/08/22 11:50
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Takuya Sugiyama
陸上選手が次に新聞のトップを飾るとすれば、それはどんな話題だろう。
ふとそんなことを考えたのは、春先に交わしたある選手との会話を思い出したからだった。
「多分、いや絶対、もう一度オレが9秒98で走っても新聞の一面にはならないんじゃないですか」
声の主は、桐生祥秀。男子100mの前日本記録保持者だ。
桐生には昨季、大きな変化があった。
2017年に日本人として初めて100mを9秒台(9秒98)で走り抜け、日本最速の称号を手にしていたが、昨季ついにその座を9秒97を記録したサニブラウン・ハキームに奪われたのだ。さらには同学年の小池祐貴も歴代2位タイとなる9秒98を出し、9秒台のニュース的価値は総じて低くなりつつある。
冒頭の発言はそんな状況を意識してのことだった。
目指しているのはただの日本新ではない。
「正直、抜かれたことに関しては悔しさしかないし、次はまた自分の番だと思っている。それこそあと0.02秒でもベストを更新すればまた日本新(記録)なので。ただ次のインパクトとしては9秒9台前半とかそれくらいを出したいですし、9秒8台を出せばまた一面を飾れるんじゃないですか(笑)」
この春、桐生が熱心に取り組んでいたのがトップスピードを上げることだった。昨秋のドーハ世界陸上100m準決勝で桐生は序盤でリードを奪うも、終盤での伸びを欠き、結果3組6位と目標にしていた決勝進出を逃した。
トップスピードを上げるということは、別の表現をすれば「もう1つ上のギアを持つ」ということだ。