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「9秒98では新聞1面にならない」
桐生祥秀が語る日本の100mの今。
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byTakuya Sugiyama
posted2020/08/22 11:50
2月、東洋大学グラウンドでの公開練習で走る桐生祥秀。東京五輪延期にも前向きなコメントが多い。
東京オリンピックでの2つの目標。
「海外の9秒台を何度も出している選手って、トップに上げてからのスピードの維持が少し自分より長い気がするんですよ。世界陸上でも残り10mくらいで順位が後ろに行っちゃったので、トップスピードを上げて終盤をうまくカバーしたい。終盤まで力を残そうとするんじゃなくて、先行してリードを守るイメージです」
そのための筋力強化であり、練習の工夫であるのだろう。ウェイトトレーニングでは昨年以上に負荷を加え、最高出力に耐えられるように体幹を意識的に鍛えていた。
中でも目を引いたのが、120mにも及ぶ長いミニハードルを繰り返し、入念に走り込んでいた姿だ。距離が延びる中でいかに回転数を落とさずに脚を前に運べるか。終盤でも脚が流れないよう、細かいピッチを刻み続けることを体にしみ込ませているかのようだった。
桐生には東京オリンピックで叶えたい2つの目標がある。
1つは、個人で100mの決勝に残り、「そこでちゃんと勝負する」こと。もうひとつが、チームとして400mリレーで金メダルを獲得することだ。ただし、桐生も認識しているように、世界一へのハードルはかなり高い。
「リレーで言うと、今のアメリカ(昨季の世界陸上でぶっちぎりの金メダル)はバトンをつなぐだけであれだけの走力があるし、イギリスもバトンの受け渡しがめっちゃ速くなっている。本番までに日本の選手がどれだけ走力を上げられるか、結果はそれ次第だと思う。まあそこに向けて、僕自身はワクワクした気持ちがあります」
緊張や不安ではなく、五輪に臨む心境を「ワクワク」という言葉で表現した。それはなにより、心の充実ぶりを映すものだった。
「五輪の延期は100%プラス」
東洋大卒業と同時にプロ宣言をし、結果がすべてという厳しい環境に身を置いてきた。世界を共に目指す「チーム桐生」を構成するコーチ、トレーナー、シューズ担当者への信頼は厚い。助言を得て取り組んできたメンタルトレーニングや肉体改造など、様々な仕掛けがうまくはまってきた実感があるのだろう。
新型コロナ禍で五輪までの計画は練り直しを余儀なくされたが、桐生は春以降も一貫して「年々メンタルも肉体面も成長してきているので、東京五輪の延期は自分にとって100%プラス」と前向きなコメントを発し続けている。