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「道路がダメなら、山から行くぞ!」
熊本豪雨で際立ったトレランの知恵。
text by
山田洋Hiroshi Yamada
photograph byYusuke Yoshida
posted2020/08/25 17:00
豪雨の直後、球磨川上流部にある八代市坂本地区に向かったトレイルランナーの吉田諭祐さん。
近代土木が忘れていた、川と山のつながり。
ここで1枚の地図をご覧いただきたい。これは球磨川流域の地図だ。最上川、富士川とならんで日本3大急流の1つとして知られ、国土交通省HPでは「暴れ川」とも表現されている球磨川は『肥後日誌』の中で「九万の支流を持つ川」として九万川と称されていたが、その名の通り、球磨川の支流が毛細血管のように広がっている。
「山と川がつながっていると頭ではわかっていますが、今の私たちには川の地図にしか見えません。トレイルランナーが同じ地図を見たとき、山ルートがある、と私たちには見えていない空間を自分たちの身体で把握している人たちがいる! すごい! と吉田さんの行動で知りました。
今思うと、近代土木は川の知識と山の知識を分断してきたのかもしれません。私たちが自然災害とどう向き合っていくのか、考え直す重要な事実だと痛感しています」
トレイルが示した山ルートの価値。
災害直後に責任感だけで被災地に向かった吉田さんの行動力とその情報の拡散力は、災害時のプロである土木関係者にリアルな情報を届け、災害復旧への足掛かりとなった。最後に吉田さんは、トレイルランナーであることの喜びを語ってくれた。
「トレイルランナーの持つ、ポジティブさやメンタル的な強さ、連動性やコミュニケーション能力の高さなどがこうした災害時に活きてくると思うんです。トレイルランニングが社会に貢献できるのは素直に嬉しいですね」
吉田さんが逆走したトレイルは道無き道を切り開いたわけではなく、かつて存在し、近代化の中で忘れられた古道や廃道を再整備したものだったが、トレイルが無傷だった事実と山ルートという新しい視点をもたらした。
(【後編】「なぜ球磨川は氾濫したのか?」ランナーが問う現代土木の落とし穴。 を読む)