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秀吉の「中国大返し」に新説が登場。
信長用の”接待設備”が奇跡の理由?
posted2020/07/19 20:00
text by
山田洋Hiroshi Yamada
photograph by
Yoshihiro Senda
「エイドステーションと言うんですね! まさにそれですよ! 今度から私も使わせてもらいます」
オンラインでつないだ画面越しで興奮気味にこう話すのは、奈良大学教授で城郭考古学を専門とする千田嘉博氏だ。
千田教授は、緊急事態宣言が発令された翌4月8日に、NHK-BSプレミアムで放送された番組「英雄たちの選択」の中で、“戦国の奇跡”と呼ばれる豊臣秀吉の「中国大返し」について、ある新説を唱えていた。
番組のHPにはこう書かれている。
<備中高松城から姫路城まで100キロにおよぶ行程を大軍が驚異的な速度で取って返した。いかにして秀吉は不可能を可能にしたのか?(中略)“幻の大返しシステム”の存在が、浮かび上がってきた>
そのシステムとはどんなものか? それを理解するキーワードが、ウルトラマラソンやトレイルランニングの世界ではおなじみの「エイドステーション」なのだ。そして、その言葉を筆者が伝えたときに、今まで単語としてご存じなかった千田教授の反応が冒頭の言葉である。
エイドステーションはランナーにはおなじみだと思うが、知らない人のためには「豪華な給水所」という説明がわかりやすいかもしれない。山野を駆けるトレイルランニングでは、100kmオーバーのレースになると、各種の飲食物が用意されるエネルギー補給ポイントとしての役割だけでなく、トイレ、仮眠所、ドロップバッグと呼ばれる事前に預けた荷物の受け取り場所も設置され、テーピングサポートや医療スタッフらも常駐している。
「本能寺の変」からの超展開。
では、なぜ戦国時代の「中国大返し」を理解するのに、トレイルランニングの言葉が必要なのか。
豊臣秀吉の「中国大返し」、歴史好きなら知らない人はいないだろう。今年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主役・明智光秀が、主君・織田信長に謀反を起こしたのが「本能寺の変」だ。
当時、毛利氏を攻めるために岡山にいた秀吉は、その一報を受けると岡山から京都までの約230kmを、わずか10日ほどの超高速スピードで駆けた。そして京都・山崎の地で光秀軍を滅ぼし、信長の仇討ちに成功するのだ。
230kmという距離をどうとらえるか。舗装されたアスファルトではない山道でも、現代の長距離好きトレイルランナーであれば3日もあれば駆け抜けてしまうため、純粋なスピードという点では驚かないかもしれない。おどろくべきは、鎧を着た1万5000とも3万ともいわれる大軍勢を率いた上で、この高速移動「中国大返し」を成し遂げた点にある。