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智弁和歌山の細川凌平の帽子の裏。
“日本一”のない夏に全うした仕事。

posted2020/08/19 18:00

 
智弁和歌山の細川凌平の帽子の裏。“日本一”のない夏に全うした仕事。<Number Web> photograph by Noriko Yonemushi

智弁和歌山が2000年以降、夏の甲子園を逃したのは5回だけだ。それだけに、主将にかかる重圧は重いが、細川凌平はその任を務めきった。

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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Noriko Yonemushi

「ぶっ潰す」

 智弁和歌山高校の細川凌平主将の帽子のつばの裏には、黒いマジックでこう書かれていた。今夏の和歌山大会の前に書き込んだ。

「相手を潰したい、圧倒的に勝ちたいとか、いろんな意味を込めて。打つ時にボールを潰したい、というのもあります。だいたい気分で書きます」

 今年は新型コロナウイルス感染症に、出場が決まっていた春の選抜も、夏の選手権大会も奪われた。自分の力ではどうにもならない現状を、「ぶっ潰したい」という思いもあったのではないか……。そんな想像もしてしまう。

 細川は、中学時代はU-15日本代表として世界大会で優勝し、智弁和歌山では1年夏から甲子園に出場。50メートル5秒8の俊足・強肩を活かした守備とパンチ力のある打撃で1年秋からセンターのレギュラーをつかみ、2年春、夏の甲子園でも活躍した。

 昨夏の2回戦・明徳義塾戦では、まさにボールが潰れんばかりの強烈なスイングで、ライトスタンドに本塁打を突き刺した。

先輩たちに続く5季連続出場を狙えた。

 新チームでは主将を任され、昨秋の和歌山大会や近畿大会では抜群の勝負強さを発揮。チームトップの12打点を挙げ、今春の選抜出場権をつかみ取った。細川にとって4季連続の甲子園。

 昨夏、史上10番目となる甲子園5季連続出場を果たした先輩の黒川史陽(東北楽天)、東妻純平(横浜DeNA)、西川晋太郎(立教大)に続いて、細川も5季連続出場を狙えた。

 しかし新型コロナウイルスの影響で、選抜も、夏の大会も中止になった。昨夏の甲子園3回戦で、星稜に延長14回の激戦の末に敗れた先輩たちから託された“日本一”にも、挑むことはできなくなった。

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