甲子園の風BACK NUMBER
智弁和歌山の細川凌平の帽子の裏。
“日本一”のない夏に全うした仕事。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2020/08/19 18:00
智弁和歌山が2000年以降、夏の甲子園を逃したのは5回だけだ。それだけに、主将にかかる重圧は重いが、細川凌平はその任を務めきった。
目指したのは、話しやすいキャプテン。
黒川、西川、東妻など野手に個性的な実力者が揃っていた昨年に比べると、新チームはやや大人しかった。「飛び抜けた力というか、スターがいない中で、自分たちは団結力が持ち味」と細川は言い続けた。
その中で主将として心がけてきたのは、同級生とも後輩とも、とにかく会話することだ。
2年生の捕手・石平創士は、「細川さんは同級生と同じように接してくれて、すごくしゃべりやすい先輩」と話す。それは細川が意識してきたことだ。
「やっぱりしゃべりにくい先輩がいたら、聞きたいことがあっても聞けないし、キャプテンがチームメイトから話しかけにくい存在だと会話もできない。どうしたら相手がしゃべってくれるかなとか、どうやったら思いを引き出せるかなというところは、ずっと考えてやってきました。
(同級生のように接すると)なめられるとか、そういう問題じゃなくて、やっぱり会話ができれば後輩に伝えられることも多いし、話すことによってそいつのことも理解できる。自分としては、まず相手を理解してあげることが大事。自分の苦悩とかを相手がわかる必要は別になくて、自分が相手のことをまずわかってあげたら、会話も増えて、チームとしてわかり合えることも多くなるので」
後輩が細川のために証明したかったこと。
親身になって話を聞いてくれる距離の近いキャプテンは、自然と後輩たちの心をつかんだ。石平は今夏の和歌山大会中、こう明かした。
「ほんとだったら細川さんはこの夏5季連続がかかっていたので、『甲子園があれば5季連続やったぞ』というのをしっかり示すためにも、この大会を勝とうってみんな言ってるんです」
大会後にそれを知った細川は、「自分の5季連続とかいうのは……、もちろん行きたかったし、そういう目標を立ててここに入ってきたというのもあるんですけど、自分の記録よりも、チームが勝てたらいい。でも、そんなふうに思ってくれていたというのはありがたいですし、うれしいですね」とはにかんだ。
次期主将の石平には、「別に黒川さんとかオレのマネはせんでいいから。石平には石平のよさがあるから、石平なりのキャプテンになってほしい」と、細川自身も昨年、前主将の黒川に言われた言葉を伝えた。