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最後まで笑顔を貫いたエース沖政宗。
磐城高が一丸で耐え忍んだ先の絆。

posted2020/08/19 20:00

 
最後まで笑顔を貫いたエース沖政宗。磐城高が一丸で耐え忍んだ先の絆。<Number Web> photograph by Kyodo News

試合終了直後、国士舘のエース中西健登(左から2番目)に笑顔で声をかけた。最後の最後まで笑顔を貫き通した磐城のエース・沖政宗。

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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Kyodo News

 甲子園交流試合でのコンディションは「よくなかった」のだと、磐城のエース・沖政宗は言った。

 新型コロナウイルスの影響によって長引く部活動の自粛。なおかつ、磐城は福島県随一の進学校のため試験期間中は勉強に専念と、夏を迎えるにあたってコンディションを整えづらかったことが主な原因ではあるが、沖は夢舞台で丁寧に腕を振った。

 最速141キロを誇るストレートは130キロ台で、120キロ台も多かった。それでも、持ち味の制球力を駆使し、スライダーやチェンジアップを低めに集める投球で、昨秋の東京王者である国士舘打線に的を絞らせなかった。

 なにより沖は、ずっと笑顔だった。

 コンディションが万全でなく、満足のいくボールが投げられない。ピンチを背負い、失点する。チームメートから心配そうな視線を向けられても、沖は指で笑顔を作る仕草を見せながら、「もっと笑えよ」と促していた。マウンド上のエースに、悲壮感はなかった。

 114球を投げ4失点を喫したが、今夏の初完投を果たした。試合後の取材では、1995年夏以来の出場となった甲子園を勝利で飾ることはできなかった悔しさは口にしていたが、どちらかと言えば晴れやかな表情のほうが多く見せていた。マスクで顔の半分は隠れていたが、声の張り、目の輝きがそれを物語っていた。

「みんなに笑顔を見せよう、楽しんで投げようって」

 ――そこまで笑顔を貫けたのはなぜか?

 ストレートに沖にぶつけると、はい、と頷きながら口を開く。目元が優しく垂れていた。

「大会前から不調で、自信を失いかけていたときもあったんですけど、チームのみんなが『俺たちに任せろ!』と言ってくれたことで何とか投げてこられて。

 今日の試合でも大したピッチングができなくて、ネガティブになりそうだったけど『やれることがあるだろう』って。自分はグラウンドで一番高いマウンドにいるんだから、『情けない姿を見せたくないな』って。

 だから、みんなに笑顔を見せよう、楽しんで投げようって思っていました」

【次ページ】 この夏の磐城のテーマが「笑顔」だった。

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