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あさのあつこが語る甲子園への愛憎。
書く原動力であり、アンチでもある。 

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中村計

中村計Kei Nakamura

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posted2020/08/13 08:00

あさのあつこが語る甲子園への愛憎。書く原動力であり、アンチでもある。<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

甲子園への愛憎なかばする感情を共有しながらも、その重力への抗いがたさも2人の共通認識だった。

「どちらかというとアンチですよね」

――2018年夏、第100回大会で金足農業が準優勝したときも、秋田県民の興奮はすごかったようですからね。全国一の過疎県で、自殺率もここ20年くらいで全国ワーストです。そういう負の部分を抱えた地域ほど、甲子園で勝つと沸き立つイメージがあります。寄付金が約2週間で、2億9000万くらい集まったそうですから。

あさの「すごかったでしょうね。おそらく、観ている人のほとんどは野球に詳しいわけではないんでしょうけどね。でも、自分たちと繋がっていて、自分を彼らが体現してくれている、みたいな感覚になるんですよ」

――ただ、あさのさんが書く甲子園を舞台にした小説は、どちらかというと甲子園というものに批判的ですよね。『さいとう市立さいとう高校』の主人公である山田勇作に「高校野球=甲子園って構図には、なんかついていけない」とつぶやかせているし、物語の終盤、ある悲劇が起きて、それを美談に仕立てようとするマスコミに猛烈に反発させていました。

あさの「どちらかというとアンチですよね。必死にがんばって甲子園に行きました、みたいなドラマは書けないかもしれません。実際に書くようになって、高校野球を取り巻く状況にはずっと違和感を持ち続けていました。

 たとえばメディアも甲子園の時期になると『届け、天国の父に』とか、『兄の果たせなかった夢』とか、そういう話であふれる。そういう記事を見かけると、高校生がただ消費されてしまっているような気がして……」

――昔、ある新人記者が、甲子園出場を決めた高校の取材に行かされて、そこで監督に「不幸な選手はいますか」と思わず聞いてしまったという話がありました。そこまでストレートではなかったと思いますが、先輩にそれに近いアドバイスを受けたのだと思います。高校野球の報道を見聞きしていると、いつもその話を思い出してしまいます。

あさの「そういう話に集約してしまうと、高校野球って、そんなに小さなものじゃないと反発を覚えますよね。そこは我慢できない」

【次ページ】 そこにいる人が飲み込まれていってしまう。

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