野ボール横丁BACK NUMBER
3ボールで強振の「出たとこ勝負」。
佐々木誠と鹿児島城西の異色な潔さ。
posted2020/08/12 19:30
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
1回表の攻撃に「佐々木誠野球」が凝縮されていた。
高校野球交流試合・第3日の第2試合。鹿児島城西の先頭打者、林誠人は身長170センチながら豪快なスイングで、詰まりながらもレフト前にポトリと落とす。
ノーアウト1塁だが、2番・乗田元気はバントの構えすらしない。身長は林よりさらに小さく168センチ。しかし両手を高々と掲げたフォームが体を大きく見せる。
監督の佐々木が言う。
「うちはいつもバントはほとんどしないので。するとしても7回以降ぐらい。2打席ぐらい立たせないと、(その打者が)今日、合ってるかどうかわからないじゃないですか。送りバントの定義みたいなものは僕は特に持っていないので」
プロ通算1599安打の男が語ると……。
ただ、攻撃的なわけではない。ただ、手堅いだけでもない。ダイエー(南海)、西武、阪神と3球団を渡り歩き、通算1599安打を残した元プロの佐々木の言うことは何か違った。
2番・乗田が空振り三振に倒れたが、3番・板敷政吾は初球を叩き、ショートへ球足の速いゴロ。これを慌てたショートがジャックルし、ワンアウト一、二塁とチャンスが広がった。
振り切れば、何かが起こる。それを先頭の林に続き、証明した。
そして、打席に4番・八方悠介が立つ。力強い構えに警戒したのか、相手バッテリーは3球連続ボール。3ボールとなったが、佐々木のサインは「ヒッティング」。
八方は4球目の置きにきたストレートを芯でとらえ、無観客の球場に快音を響かせる。ところが、打球はセカンドよりに守っていたショートの真正面をつき、ダブルプレー。チャンスは一瞬にして潰えた。
積極的な打撃が裏目に出る形となったが、佐々木は全く意に介していなかった。
「うちは3ボールからでも、ほとんど打たせます。後悔のないよう、フルスイングしてくれればいい。八方も気持ちのこもったスイングをしてくれていましたから」