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久保建英がいることで視える世界。
カズを見て校庭を走り回ったように。 

text by

中野遼太郎

中野遼太郎Ryotaro Nakano

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photograph byMutsu Kawamori/AFLO

posted2020/08/10 11:50

久保建英がいることで視える世界。カズを見て校庭を走り回ったように。<Number Web> photograph by Mutsu Kawamori/AFLO

「世界」にいる久保建英を見て、同世代の選手や少年少女たちは何を感じるか。

もうひとつは時代の先頭を走る選手。

 しかし、この「世代」の視座に干渉できる存在が、もうひとつあります。

 それが、時代の先頭を走る選手です。三浦知良が扉を開いたように、中田英寿、中村俊輔、小野伸二が世界を見せてくれたように、世代に共有されるマインドセットは「前例」を持って飛躍的に高まっていきます。そして幸運なことに、いまの日本には「世界のトップ」の一員として、若い世代を強烈に刺激してくれる存在がいます。

 久保建英選手です。

 久保選手の存在は、前述の3つの視座のうち、「世代」に強烈に働きかけています。それは指導者から選手に伝える「コーチング」とは全く別の種類のもので、誰かに「言われる」のではなく、組織で「求められる」のではなく、選手がより自発的に久保選手を「自分に投影」することによって生まれるものです。

 僕は指導者になって、選手の「内側から出てくる」意欲の強弱が、外側の、つまりコーチングとしての指導の浸透圧を決定的に変えていくことを痛感しています。

「必要なこと」示してくれる久保建英。

 たとえば僕が久保選手と同世代に当たるU-20代表の選手たちに「語学が大事だからやっておけよ」と1000回言うよりも、彼がスペイン語でチームメイトと戯れている動画を1回見るほうが、選手にとっては効果があるでしょう。身体の使い方に目を向けることの重要性も、利き足以外の重要性も、シンプルにプレーするタイミングも、指導者が口酸っぱくいう前に、久保選手が「必要なこと」として示してくれています。

 おそらく今の若い世代の選手たちは、僕たちがジダンやフィーゴを見ながら「霧を掴むような感覚で」学ぼうとしていたことを、19歳の日本人から学んでいて、今からサッカーを始める子供たちにとっては「レアルで日本人がプレーする」というのは「すでに起きたこと」なのです。

 2003年に国立競技場で行われたFC東京対レアル・マドリー(0-3)を観戦しましたが、中学生だった当時の僕にとっては「レアルで日本人がプレーする」というのは現実的ではなく、同世代にとってレアルに入団する、というのは「現実では起こりえないだろう」というバイアスがかかった「夢のまた夢」でした。

 もちろん、ピッチの上では国籍も年齢も一切関係ありませんが、それを「自分の未来に投影する」ためには、国籍や年齢は大きな関心事です。マジョルカで爆発的な活躍をしたのが18歳のブラジル人か、18歳の日本人かというのは、大きな違いなのです。

【次ページ】 心の片隅に灯るであろう、嫉妬や焦燥。

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