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井岡一翔36歳の左フックでマルティネスが崩れ落ち…“ダウンを奪って敗れた”直後の本音「引退しますと言える感情ではない」現地で見た“意外な表情”
posted2025/05/12 18:00

WBA王者フェルナンド・マルティネスとの雪辱戦に挑んだ井岡一翔。10回にダウンを奪うも、判定負けを喫した
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
WBAスーパーフライ級タイトルマッチが11日、東京・大田区総合体育館で行われ、挑戦者の井岡一翔(志成)が王者のフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)に3-0判定負け。昨年7月のWBA・IBF統一戦で敗れた相手に雪辱できず、王座返り咲きに失敗した。井岡はなぜ敗れたのか。そしてこれからどこへ向かうのか──。
「ジャッジにどう見られていたかは分からなかった」
昨年大みそかに一度は決まったダイレクトリマッチはマルティネスのインフルエンザ感染により試合前日になって中止に。仕切り直しのこの夜、両選手が互いの持ち味をぶつけ合った。
初回から目の離せない攻防となった。マルティネスは体を丸め、前進しては左右のフックを打ち下ろし、スタートから攻める気満々だ。井岡はコンパクトな左ボディで対抗。第1戦で初回にボディ打ちでマルティネスにダメージを与えたこともあり、下から崩すという明確な意図が見て取れた。
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互いによく手を出す白熱した攻防ながら、やや優勢に見えるのはマルティネスだ。ジャブ、右フックを突破口に歩くように前に出て体で井岡を押し込むと、右構えでも左構えでもおかまいなしにパンチをつないでいく。距離を詰めたときに必ず派手な連打を繰り出すのがマルティネスのスタイルだ。井岡はブロックとダッキングでこれをしのぐ。ただ、すべてを完璧に防ぐのは難しく、マルティネスが攻勢を仕掛けている、という印象を我々に与えた。井岡が戦前から十分に意識していたところだった。
「彼のオフェンスは見栄えがいいので、どう後ろでさばくのか、前で打ち合ってカウンターを決めるのか、一瞬一瞬の難しい選択が続きました。第1戦に比べてパンチはうまく外せていたと思うけど、ジャッジにどう見られていたかは分からなかった」
井岡も左ボディや左フックを好打するシーンを何度も作った。ただし、そのあとマルティネスの反撃を食らい、どのラウンドも「確実に取った」と思えるほど明確な差をつけることができない。試合後にスコアを確認すると、井岡が3ジャッジをそろえたラウンドはこの後にダウンを奪う10ラウンドしかなかった。