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大阪桐蔭の短くて熱い夏が始まった。
甲子園の遠さを知る3年生が残す物。 

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米虫紀子

米虫紀子Noriko Yonemushi

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photograph byNoriko Yonemushi

posted2020/08/04 17:30

大阪桐蔭の短くて熱い夏が始まった。甲子園の遠さを知る3年生が残す物。<Number Web> photograph by Noriko Yonemushi

大阪の独自大会、そして甲子園での交流試合。望んだものとは違えど、これもまた高校野球なのだ。

引退した3年生が2年生をサポート。

 捕手の吉安遼哉も、「正直、大阪桐蔭に入れば、甲子園には何回も出れると思ってたんですけど、やっぱり他の高校もかけるものが違うので、厳しい世界やなと思いました」と明かした。

 昨秋4番を任された仲三河優太は、「2個上の先輩は、簡単に(甲子園に)行くと言うと語弊があるかもしれないですけど、そんなふうに見えていた。でも去年は、甲子園に行くのはこんなに難しいのかと、壁にぶつかった1年でした」と語っていた。

 昨秋は、「3季連続で甲子園出場を逃すことは、大阪桐蔭としてはあってはならないこと」という強い覚悟で、「粘り」を合言葉に苦しい試合をものにしていった。

 自分たちの代で甲子園出場を果たせず無念の思いで引退した昨年の3年生が、秋の大会に臨む後輩たちの練習を例年以上にサポートした。昨年のエース・中田惟斗(オリックス)も、積極的にシートバッティングや紅白戦に登板した。

「自分たちは甲子園に行けなかったので、1個下が甲子園に行けるまで少しでも役に立てればということで、全員で協力しました」と中田は語っていた。

「甲子園に飢えているチーム」。

 そして昨秋の大阪大会では、昨夏日本一の履正社を決勝で破って優勝し、近畿大会でも準々決勝の明石商戦、準決勝の智弁学園戦に逆転で勝利。決勝では天理に敗れたが、今春の選抜の出場権を勝ち取った。

 西谷浩一監督は今年の代をよく「甲子園に飢えているチーム」と表現した。その飢えた選手たちが、ようやくつかんだ甲子園切符だった。

 ところが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今年の春の選抜は中止になった。そして5月20日、夏の選手権大会も中止が発表された。

 主将の薮井駿之裕は、「頭が真っ白になった。ずっと、本気の本気で日本一を目指していたので、その目指していたところがなくなり、どうすればいいのかと混乱しました」と振り返る。

【次ページ】 中止の穴は言葉では埋まらなくても。

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