甲子園の風BACK NUMBER
大阪桐蔭の短くて熱い夏が始まった。
甲子園の遠さを知る3年生が残す物。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNoriko Yonemushi
posted2020/08/04 17:30
大阪の独自大会、そして甲子園での交流試合。望んだものとは違えど、これもまた高校野球なのだ。
中止の穴は言葉では埋まらなくても。
発表の翌日、電話で取材に応じてくれた西谷監督の声は沈んでいた。百戦錬磨の名将も、この時ばかりは無力感を口にした。
「ある程度は覚悟していましたけど、いざそうなると、3年生の顔が浮かんで、心が痛いというか……。春が中止になった時は、『夏に』というふうに話をしましたけども、その夏が中止になって、どう言葉をかけてあげればいいのかなと。
甲子園での日本一を目指して、大阪桐蔭にやってきてくれて、ここまで苦しい練習も頑張ってくれた子たちなので。逆にこっちは、何もさせてやることができない。昨日、中止という発表を受けて、監督として無力さというか、子供のために何もしてやれないなーという、申し訳ない気持ちになりました」
前日は、寮で選手全員に中止が決まったことを伝え、その後3年生だけを残し、時間をかけて話をした。
「どんな言葉を並べても、ここまで甲子園ということをずっと考えてやってきた子たちなので、1日2日で穴が埋まることはないんですけど、寄り添える時間があればなと思って。少し時間がかかるかもしれないですけども、しっかりまた前を向いてやってくれると思います」
言葉よりも、寄り添うことに意味があると考えた。ただその言葉も、選手たちの心には沁みていた。
後輩に何を残していけるか。
上野海斗は、「野球ができている環境が当たり前じゃないということと、3年生は今年が最後なんで、後輩に何を残していけるかだ、ということを言われました。やっぱり自分が今残していけることを、練習でも生活でも、見せていけたらと思いました」と言う。
西野力矢は「そんなすぐに簡単に切り替えられる人はいないと思う。全員で徐々に、立ち直っていこう」という言葉に支えられた。
主将の薮井は、「3年生が弱い姿を見せたらチームは弱くなる。同級生の間では愚痴でもなんでも言っていいから、後輩の前では、空回りしてもいいから元気を出して、弱いところを見せないでおこう」という言葉を胸に刻み、チームをまとめることに腐心した。