ドラフト候補の149kmを悠々運ぶ。
岐阜一高の2年生、阪口樂は本物だ。

　いやあ、とにかくビックリした。

　こんな「怪物」がこんなところにいたとは。良いものを見せてもらった……いや、いただいた。

　お目当ては、帝京大可児高・加藤翼投手（3年・178cm75kg・右投右打）だった。

　これまでの試合で当たり前のように140キロ後半をマークしながら、時には「150キロ台」も何球かはさみながら勝ち上がってきた快速右腕と聞いていた。

　たった1球出てしまった「MAX●●●キロ」ではない。コンスタントに145キロ前後の球速帯で投げ進められるというから、ものすごく楽しみにして岐阜に向かった。

　ネット裏には6球団のスカウトの方たちの姿も見えて、ヨッシ！ と思ったら、地元記者の方が「今日は投げないかもしれませんよ」という。

　指にマメができてしまったらしい。

　ものすごくガッカリしたが、あまり表情に出すと、「野球の神さま」の心証を害する。

　笑うかもしれないが、これは本当にある話で、お目当てを失ってしまったからといって、投げやりな態度で現場にいると、嫌いな人に会ったり、どしゃ降りの夕立にあったり、ろくなことがないのは、40年に及ぶ観戦生活で学んだ大切な戒めなのだ。

　きっと何か良い事がある……そう念じながら、グラウンドの試合展開にジッと目を凝らしていると、初回からいきなり「来た」。

阪口樂の信じられない打球。

　対戦相手の岐阜一高の4番・阪口樂（うた・2年・186cm94kg・右投左打）が、高めの速球に高さを合わせるようにしてバットを振り抜いた打球が、ライナーで左中間最深部のフェンスを越えていったから驚いた。

　高校生がホームランを打つようなスイングじゃなかった。むしろ、投球の軌道にスイング軌道を合わせにいっただけ……みたいな打ち方に見えた。いい風も吹いていたが、風の力を借りるほど高く上がってはいなかった。

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