セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
人間臭いユーべ9連覇とサッリ親分。
ビッグイヤーも、獲ったるけえの。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/08/05 11:50
ロッカールームで歓喜の“スパークリングシャワー”を浴びたサッリ監督。しかしユーべの目標はすでにビッグイヤー獲得に切り替わっている。
拍手もブーイングも。ナポリ流の愛。
親分がユーベ1年目に残した言葉で忘れられないものがいくつかある。
「拍手するのも愛。ブーイングするのも愛。それがナポリ流の愛」
「リーグ戦のどこかでどうせ敗れるのなら、ナポリが相手でよかった」
前者は入団会見で、古巣ナポリの人びとが敵となった自分にどう反応すると思うか、という質問に答えたもの。
後者は1月に敵地サン・パオロで敗れた際に漏らし、ユベンティーノたちの顰蹙を買ったものだ。
どちらも、まるで昭和の演歌か歌謡曲のフレーズのようで、古巣への並々ならぬ愛と憎悪がにじみ出ている。サッリ以外でこれほど人情味あふれるコメントを吐けるのは、ナポリのガットゥーゾ監督くらいのものだ。
理想を引っ込めて、したたかに。
結局のところ、自らにスクデットをもたらした要素は、雇い主が集めたハイスペックの子分たちが備える個人能力の高さだったことをサッリは知っている。
斬込隊長ディバラと業界でその名を知らぬ者なしの若頭ロナウドといった、圧倒的な“個”への依存を地元メディアに揶揄されても反論せず、優勝決定直後のインタビューで「スクデットは誰の手柄か」と問われた際は「このタイトルはクラブの功績だ。ガソリンをくれたのは会長だ」と涼しく応えた。
サッリはヘビースモーカーで言葉遣いは乱暴だが、聡明だ。頭は切れる。
実績と稼ぎが己の何倍もある子分たちの信頼を得て、ついてこさせるためには、まずは理想より結果を出して納得させなければならない。
己の理想はひとまず引っ込め、フロントが用意した戦力を腐らすことなく、彼らの顔を立てながらタイトルを勝ち取ることを優先させて、雇い主の信頼も得る。
サッリ親分はしたたかになったのだ。