セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
人間臭いユーべ9連覇とサッリ親分。
ビッグイヤーも、獲ったるけえの。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/08/05 11:50
ロッカールームで歓喜の“スパークリングシャワー”を浴びたサッリ監督。しかしユーべの目標はすでにビッグイヤー獲得に切り替わっている。
9連覇達成も色々と隙が多かった。
果たして、ユベントスの今季セリエA優勝は、誰の功労によるものだろうか。
9連覇目にあたる今季のタイトルは、過去8年と比べるといろいろ隙が多い。勝点83は連覇中最も少なく、7つも黒星を重ねた。
得点数76は1位アタランタの98得点に遠く及ばないし、過去10年で最も多い43失点はインテルやラツィオに劣る。
今年のユベントスは、無敗優勝や最多勝点記録「102」を打ち立てたコンテ時代や鉄壁の5連覇を成し遂げた名将アッレグリのチームとは明らかに違う。
サッリ親分は矛盾に満ちたカンピオナートを送った。
国内でどれだけ連覇を重ねても、欧州の頂点に手が届かない名門ユーベは、己の因習に囚われないサッカーと新しい指導者を求めた。
リバプールがクロップを、マンチェスター・Cがグアルディオラをそれぞれのベンチに招いたように。
規律と堅守ではなく、生身のユーべ。
だから、サッリ親分は本来練りに練った戦術的な機能美を前面に、観客を魅了しながら勝つために呼ばれたはずだった。だが、ユーベのロッカールームにいる選手たちの多くは、前任者アッレグリが評価していた者かフロント主導で集められたメンバーで、親分が理想とする4-3-3を実現するために集められた人材ではなかった。
“王様”ロナウドに「90分間ハイプレスをしろ」とは言えない。中盤の要にと期待した名手ピアニッチはすでに“完成品”で、「速いテンポの攻守トライアングルを仕切れ」と一から仕込むには歳をとりすぎていた。親分の望むパスワークは中盤が肝なのに、サッリのユーベはドーナツみたいに中盤がスカスカだった。
時折インテルやラツィオとの直接対決で締まったゲームを見せることがあっても、今季の戦術は固まらず、前も後ろもつねに揺れていた。
規律と堅守によって築かれたユベントスという名門は、“鉄”でできているはずだ。
しかし、脆さと弱さをさらけ出し続けたサッリのチームを地元紙や識者は、良くも悪くも“人間くさい、生身のユーベ”と評した。