マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
日大藤沢・牧原巧汰はやはりいい。
高校No.1捕手が持つ2つの超一流。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byYoshiyuki Otomo
posted2020/08/05 07:00
高校生捕手がドラフト上位に入ることは少なく、それはつまり指名されたら期待が極めて大きいことの裏返しなのだ。
チェンジアップに右半身が崩れない。
およそ3カ月の「自粛ブランク」と、筋膜炎による2週間のブランク。ダブルのブランクがあれば、バッティングの感覚はかなり失われるのが普通だろう。
しかもこの日の相手は、速球と同様の渾身の腕の振りからのチェンジアップを持つ難敵だ。
牧原巧汰にも負けないスイングスピードと打撃センスが光るリードオフマン・姫木陸斗中堅手(3年・179cm77kg・左投左打)すら、タイミングを外されて空振り三振を喫した。
そして牧原に回る。そのチェンジアップに最初の打席はわずかにタイミングを外されたが、踏み込んだ右半身が崩れない。ミートポイントはズレたが、ボールはしばけた。飛距離はセンターの定位置だったが、落ちてくるのに時間がかかるほどの高さがあった。
第2打席は3ボールナッシングから打ちにいき、エイッ!と力んだぶんだけ詰まったが、打つことに前向きなのは「感覚」が戻っている証拠だ。
「プロでもそんなにいませんよ」
こりゃ、出るなぁ……と思った第3打席。牧原巧汰が踊るようなスイングを繰り返しながら打席に向かったから、あれっと思っていたら、タテのカーブが低めに落ちてくるところを拾った打ち方に唸らされた。
こういうボールは、いわゆる「フルスイング」をしちゃいけない。振り回したら、必ずミートポイントを逸する。
そこを牧原巧汰は、右半身を開かずに止めたまま、顔をミートポイントにはっきり残して、バットヘッドだけはグイッと返した。タイミングがピシャリだったから、これこそ本物の「フルスイング」になった。
フェンス直撃かと思ったライナーは、そのまま伸びっぱなしでライトフェンスを余裕で越えていった。
「プロのバッターだって、タテのカーブをあんな打ち方できるの、そんなにいませんよ」
衝撃の場面に立ち会った4球団のスカウトをも唸らせた絶妙のスイング。
この選手には「技術」がある。
高校球児のほとんどは「身体能力勝負」……実情はそうだ。特に、高校生の野手に技術を求めても、なかなか出会えないのが現実なのだ。