マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
日大藤沢・牧原巧汰はやはりいい。
高校No.1捕手が持つ2つの超一流。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byYoshiyuki Otomo
posted2020/08/05 07:00
高校生捕手がドラフト上位に入ることは少なく、それはつまり指名されたら期待が極めて大きいことの裏返しなのだ。
打っても舞い上がらないのがいい。
こういう場合、打者の魂は一気に高揚するものだから、たいていは、次にフォークかチェンジアップでタイミングを外され、ボールになるショートバウンドを追いかけて空振り三振。そんな顛末を想定していたら、とんでもない。
スライダーをもう一度しっかりと自分のミートポイントで捉えた痛烈な打球が、今度は一塁手を強襲。ボールがファールグラウンドを転々とする間に二塁打にしてみせた。
その後、昨夏の県大会では、県下屈指のサウスポー・安達壮汰(桐光学園)から横浜スタジアムの左中間スタンドに放り込み、秋にも当たり前のような顔で1試合3安打、4安打を重ねた。
捕手としても超一流。
もう1つの捕手・牧原の武器は、捕球→送球の鮮やかさだ。それも、たいていの捕手が苦しむホームベース一塁側(特に左打者のインコース)のボールのさばきに独特のアクションができるのが「捕手・牧原」の大きなアドバンテージだ。
左手のミットを伸ばして捕球するから、どうしても体が引っ張られて、体勢が崩れやすいのだが、捕手・牧原は捕球した位置でボールを握り替えて、そのまま送球動作に持ち込める。社会人野球で高度な捕球→送球動作を身につけた日大藤沢・山本秀明監督直伝の「ワザ」である。
2年の夏には捕手・牧原を相手にスタートをきってくるランナーはほとんどいなくなっていた。
バッティングに、ディフェンスに、高校生ばなれした能力を兼ね備える捕手・牧原の「この夏」がどんな様子になっているのか。とても楽しみにしていた。
右足太ももの筋膜炎で2週間ほどのブランク明けだという。
「解禁」になって、きっとシャカリキになってピッチを上げ過ぎたのだろう。そういう真っすぐ過ぎるところのある少年……いや、青年である。
試合前のシートノック。
いったん試合が始まれば加減して動くような選手じゃないが、やはりいつものキレ味はない。それでも、強肩を見せつけるような力任せのスローイングじゃないのがいい。ベースの上にポンと置く。実戦で威力を発揮する大人っぽい意識が見える。