令和の野球探訪BACK NUMBER
投手だけじゃない文武両道の新鋭校。
強打と「万全の準備」で広島の頂点へ。
posted2020/08/05 11:40
text by
高木遊Yu Takagi
photograph by
Yu Takagi
一度火がついた打線は止まらなかった。
令和2年夏季広島県高等学校野球大会の準々決勝。武田高校は、甲子園出場春夏通算5回、そして山岡泰輔(オリックス)らを輩出している強豪・瀬戸内高校と対戦した。武田高校にとって県8強は2018年秋以来、夏の大会は初めての進出だったが、2回に4連打を含む5安打6得点、3回には7連打を含む9安打9得点を奪うなど、15-3で大勝。同校史上初となる4強入りを決めた。
観戦に訪れた竹村豊子校長は「夢のようです」と呟いた。無理も無い。武田高校は私学ではあるものの、いわゆる「野球学校」ではないからだ。進学に力を入れた教育方針もあり、平日は夜間にも授業を行うため、野球部の全体練習はわずか50分。グラウンドはある程度広いが、他部との併用で内野ほどのスペースしか使えない日も多い。
そんな環境の中でも、投手育成では成果を出してきた。
昨年は最速152キロ右腕の谷岡楓太がオリックスから育成ドラフト2位指名を受け、初のプロ野球選手が誕生するという大きな実績を残し、すでに当コラムで紹介した右腕・久保田大斗(3年)が今年のドラフト候補に挙げられている。それゆえ、どうしても投手陣に脚光を浴びることが多かったが、視察した夏の大会では、打線の厚みが増していた。この夏の4試合だけで48得点を挙げているのだ。
目立ったのは重松マーティン春哉。
プロ野球のスカウト陣が複数訪れる中、この日、目立ったのは2番を打つ右打者の重松マーティン春哉だ。
体格は180センチ85キロ。3番を打つ中久保和洋らとともに特進コースの最上位クラスに所属。広島大学進学も視野に入れるほどの秀才だが、「できれば高卒でプロに行きたいです」と、日本高野連と日本野球機構(NPB)が共催する合同練習会にも参加する意向だという。
第1打席は“なんでもない”ショートゴロで、あと一歩でセーフかという俊足を見せれば、第2打席では左中間を破る打球を放ち、またもや俊足を飛ばして一気に三塁に到達。さらに相手の送球が逸れたことを見逃さず、スッと立ち上がりホームへすぐにギアを上げて走り出し、ヘッドスライディングでホームに生還した(記録は三塁打と相手失策)。第3打席でも右中間への二塁打を放った。