セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
リベリーが遠征中に空き巣被害。
イタリア泥棒事情は想像の斜め上。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/07/22 07:00
フィレンツェで空き巣被害にあったリベリー。カルチョの国はピッチ外でも集中力を欠いてはならないようだ。
「この一帯では赤信号でも止まるな」
セリエAの窃盗・強盗事件簿は分厚い。そして、被害者の多くはナポリに集中している。
郊外にあるカステルボルトゥルノ練習場に、初めて車で取材に向かったときのことだ。取材前に立ち寄った練習場沿いのバールでの去り際に、主人が小声で忠告してくれた。
「もし、帰りに日が暮れたら、この一帯では赤信号でも絶対止まるな」
赤信号で止まった瞬間、どこからともなく現れたスクーターからピストルを向けられ、金品か高級腕時計をよこせと脅されるというのだ。
元コロンビア代表DFカミロ・スニガも、同胞FWドゥヴァン・サパタ(現アタランタ)も、練習帰りにこの手口でやられた。また、ナポリ在籍時代に空き巣に入られ、腕時計や車を盗まれた選手には、FWエディンソン・カバーニ(現パリSG)やMFバロン・ベーラミ(現ジェノア)など枚挙に暇がない。
それは、地元っ子の主将ロレンツォ・インシーニェであっても例外ではなく、4年前の冬にナポリ市内でロレックスを奪われた際には、ナポリ・ファンと思しき強盗犯が「次の試合では俺にゴールを捧げてくれ」という捨て台詞まで吐いていったとか……。
盗人猛々しいとはこのことだ。
伝説のボヌッチ暴漢撃退事件とは。
ユベンティーノなら、2012年の“ボヌッチ暴漢撃退事件”は記憶に留めておきたい。
トリノ市内のフェラーリの販売店を訪れたDFレオナルド・ボヌッチが、ヘルメット姿のピストル強盗に拳で殴りかかって撃退した、という武勇伝だ。
しかし、イタリア司法や警察は同様の場合に完全無抵抗を強く推奨しており、ボヌッチの行動は同伴していた妻も危険に晒す無謀かつ無分別な蛮行だったと見なされ、この事件を機にボヌッチにはある意味“狂犬”的イメージがついた。クレバーに命と財産を守った前述のマルキージオとは実に対照的だ。
もちろん、リベリーもマルキージオ同様、自宅に防犯システムを備えていた。しかし、窃盗団は一枚上手でシステムをたやすく無効化したらしい。
幸い、家族はミュンヘンにいて無事だったが、下着と娘の靴を盗まれた妻は怒り心頭で、丁寧な口調ながらやはりSNSで泥棒たちを罵っている。