セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
リベリーが遠征中に空き巣被害。
イタリア泥棒事情は想像の斜め上。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/07/22 07:00
フィレンツェで空き巣被害にあったリベリー。カルチョの国はピッチ外でも集中力を欠いてはならないようだ。
実は筆者も泥棒に入られたことが。
実は、筆者である僕もフィレンツェで泥棒に入られたことがある。日韓W杯が終わって、うだるように暑かった夏だ。
その頃、僕はフィレンツェで一番大きい駅から歩いて15分くらいの住宅街に、気の合うガテン系の同年代2人と同居していた。僕らの3DKにはエアコンがなかったので、連日の熱帯夜に窓という窓を開け放っていた。
「おい、大丈夫か?!」
ちょうど今頃、7月下旬の朝だ。ルームメイト2人が自室のドアを叩く音で目が覚めた。何事かと寝ぼけまなこで尋ねると、彼らは「やられた」と呻いていた。
2人の財布と買ったばかりの新型スクーター、家族で作ったお揃いの指輪などがキレイさっぱり消えていた。幸い僕の被害は何もなかったが、たまたま泊まりに来ていたルームメイトの彼女も浴室に置いていた化粧ポーチからジュエリーを盗まれていた。
通報してやってきた警察は、家中を指紋採取用の粉だらけにしながら、賊の進入経路を開け放ったキッチンの窓だろうと見当をつけた。「ここ、3階ですよ?」と問いかけたら、身軽な1人に壁沿いの細い配水管を登らせて侵入させた後、内側から鍵を開けさせる手口は珍しくないそうで、加えて僕らの部屋からは強力な催眠スプレー成分が検出された。
さらに事件当夜、隣のアパートを含む付近一帯の計6軒が被害に遭っていた。窃盗団のあまりの手際の良さに、本職の犯行と諦めざるをえなかった。
23歳のリベリーは好青年だった。
それから何年か経って、僕はマルセイユへ取材に行った。
お目当ては当時ルマンに所属していたMF松井大輔だったのだが、正直試合のことはよく覚えていない。ただ、スタッド・ベロドロームで偶然鉢合わせしたリベリーのことは鮮明に覚えている。
試合後、選手はロッカールームから専用出口を使うはずだが、当時23歳でフランス代表期待の若手ドリブラーとして売り出し中だったリベリーは、そのときなぜか一般ファンがごった返す正面玄関にぶらりと現れたのだ。
フランス在住通信員の助けを借りて、ダメ元で話しかけてみた。
突然の申し出だったから拒まれて当然と思いきや、彼はとても真摯に対応してくれた。雑踏の中でこちらに耳を傾け、目をまっすぐ見て、答えを真剣に探してくれた。
見た目の印象とは正反対。去り際の挨拶もとても爽やかで、強面どころかリベリーの素顔は好青年そのものだった。以来、彼の名を聞くと、そのときに抱いた好感をいつも思い出す。