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リベリーが遠征中に空き巣被害。
イタリア泥棒事情は想像の斜め上。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2020/07/22 07:00
フィレンツェで空き巣被害にあったリベリー。カルチョの国はピッチ外でも集中力を欠いてはならないようだ。
フィオが熱烈歓迎したリベリー。
昨年の夏、フィオレンティーナに電撃加入したリベリーは、フィレンツェ市民から熱烈歓迎を受けて瞬く間にチームの中心となった。
オーナーが変わり心機一転、今季のビオラ(フィオレンティーナの愛称)はあわよくばEL出場圏を狙うはずが、序盤から低迷した。ビンチェンツォ・モンテッラ監督は昨年12月限りで解任されて、後任にジュゼッペ・イアキーニ監督が就いたが、新指揮官にとってもリベリーの存在は変わらず重要だった。
確かに、チームのエースはイタリア代表FWフェデリコ・キエーザだが、彼はデビュー当時から“早晩ビッグクラブへ出ていく人間”と見なされている。
チームをまとめる上で今のビオラにむしろ欠かせないのは、ワールドクラスの知名度と実績を持ちながら、気さくなリーダーとして若手の心をつかんでいるリベリーの方だ。
だが、今回の事件を機に、リベリーは家族の安全を第一に考えてフィレンツェに愛想を尽かすかもしれなかった。シーズン後、チームを出ていくと言い出しかねない。
首長までもが慌てて引き留め声明。
そんな危機感を抱いたのは、ファンだけではなかった。
リベリーの邸宅は、フィレンツェの東にあるバンニョ・ア・リポリという瀟洒な住宅地にある。長閑な風景広がるトスカーナの田舎に降って湧いた事件に首長もショックを受け、スター住民リベリーに出ていかれてはかなわん、と慌てて引き留め声明を出した。
またチームメイトたちは事件発覚当日、すぐにリベリーを夕食に誘い、「同情するよ」「落ち着け。安心しろ」「俺たちがついている」と口ぐちに慰めた。
ロッコ・コミッソ会長は、在住するアメリカから直々に電話をかけ、「一刻も早く心の平穏を取り戻せるよう、できることは何でもしよう」と勇気付けた。
自宅を泥棒に荒らされた翌々日には、ホームでのカリアリ戦が待っていた。
警察の取調べに応じ、疲れと怒りで心身ヘトヘトになっているはずなのに、リベリーは気丈にも練習に出てきた。感心したイアキーニ監督は、まず本人にプレーする意思があるか確認すると、彼のプライドを焚きつけた。
「やりきれない気分をグラウンドにぶつけろ」