“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
三笘薫、川崎仕様のドリブラーへ。
「0から100できるのが僕の特徴」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byJ.LEAGUE
posted2020/07/22 08:00
途中出場から流れを変えた三笘薫。切れ味鋭いドリブルは川崎のサッカーの中で着実に進化を遂げている。
「僕がいろんな選択肢を持たないと」
下部組織時代から三笘のドリブルを観てきたが、最近のそれは着実に「フロンターレ仕様」に変貌している。ボールを大切にする川崎のサッカーのなかで、三笘のストロングポイントである“ドリブル”を打ち出すことは、周囲が考える以上にハイレベルなミッションだ。リーグが中断する前、三笘はその葛藤を吐露していた。
2月22日、J1開幕戦のサガン鳥栖戦。この試合も左サイドハーフで途中出場した三笘は、得意の高速ドリブルでカウンターの急先鋒となった。試合はスコアレスドローまま終了したが、ボールを受けてから前に出る推進力は相手にとって脅威になっていた。
「ウチはパサーがたくさんいるので、いかにその中で自分の武器であるドリブルを生かせるか。ドリブルをする時にどうしてもまだ周りを見えていない部分があって、『自分、自分』になりすぎてしまったのかなと。(小林)悠さんの動き出しをもっと見ながら、視野を確保しながらプレーできていれば、もっと違った判断ができたのかもしれない。そこは反省をしたいと思います。
もっとサイドの仕掛けは必要だとは思うので、その威力をより高めるためにもやっぱり僕がいろんな選択肢を持たないと、いい判断にはつながらないので、やはり判断材料を得るために視野確保はこれからやっていかないといけないと思っています。突破力だけではなく、えぐる形、ラストパス、パスの絡み、シュートまで持ち込むことを考えるようにしたい」
この葛藤はどのドリブラーも口にする、言わば「常套句」でもあった。ドリブラーにありがちなヘッドダウンの姿勢は視野を狭め、プレッシャーが早く、フィジカルも組織レベルも高いプロの世界では、目まぐるしく変化する局面に適応できないことが多い。時にボールを持ちすぎて、「無謀なチャレンジ」というレッテルを貼られることもある。逆にそれを気にしすぎることで、持ち味を発揮できず、縮こまったプレーに終始する選手もたくさん見てきた。
フロンターレで変わったこと。
三笘も当然その壁にぶつかっていたが、より踏み込んでドリブル論を聞くと、彼が考えていることが理解できた。
「フロンターレに入って、止まってプレーすることや間で受けることが格段に増えた。それは前向きではなく、半身だったり、後ろ向きで受けることも増えたんです。大学時代はワイドに張って受けてから加速したり、中盤まで落ちてボールを受けてから加速するシーンが多かった。でも川崎ではミドルゾーンまで落ちなくても、ファイナルサードに残った状態でボールを待つことができるのが違う。最初はそれに戸惑ったのですが、逆に自分の持ち味がより生きるのではと考えるようになったんです」