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“ポジティブ原理主義”には弊害も。
専門家が語るアスリートの心問題。 

text by

佐藤春佳

佐藤春佳Haruka Sato

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photograph byGetty Images

posted2020/07/20 15:00

“ポジティブ原理主義”には弊害も。専門家が語るアスリートの心問題。<Number Web> photograph by Getty Images

2018年に「自ら命を絶たなかったことに感謝している」と壮絶なうつ病経験を語ったマイケル・フェルプス。五輪4連覇の水の王者の告白に世界が驚いた。

パワハラが問題になるのも最近のこと。

 スポーツの現場における空気感は、ここ10年で大きく変わった。2012年12月、大阪市立桜宮高校のバスケットボール部のキャプテンだった男子生徒(当時17歳)が体罰を苦にして自殺した事件は社会問題化。全国で部活動におけるパワーハラスメントやセクシャルハラスメントの告発が相次ぎ、行き過ぎた指導や上下関係が厳罰化される流れにつながった。

 今までの部活にありがちだった指導者(監督)が一方的に価値観を提示して選手を管理するという「直線的な上下関係」には変化が訪れている。その新しい関係性を、荒井教授は「立体的」と表現する。

「アスリートセンタード、アスリートファーストとよく言いますが、真ん中に選手がいて、周りの人々が支えるイメージです。選手を支えるのは監督だけでなく、トレーニングコーチや、ポジションごとのコーチ、外部指導員、保護者など。つまり選手をとりまく“舞台”にいる登場人物が増え、専門的な知識と経験からアドバイスができるようになってきました」

メンタルトレーナーという仕事。

 その登場人物のひとりが、メンタルコーチや、メンタルトレーナーだ。実際にこの10年でスポーツの現場でもメンタル面を支える専門家が増え、荒井教授自身も「スポーツメンタルトレーニング指導士」として大学内の体育会系の部活動やトップアスリートのサポートに携わっている。

 現場でメンタルの専門家に求められる役割は多様だという。

 トップアスリートなら勝負の場面で力を発揮するための「メンタルトレーニング」の指導。心の不調を訴える選手には、精神科や心療内科への橋渡し役となることも必要だ。また、人間関係や進路、家族との問題など“よろず相談”のような役割、そして監督と選手のクッションになるような役割も担うという。荒井教授は「組織の潤滑油ですよね」と笑う。

【次ページ】 役割分担にはデメリットもある。

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#荒井弘和

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