濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「有観客」の熱と無観客での前進。
プロレス界の“新しい非日常”を読む。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2020/07/06 07:00
有観客興行開始のあいさつでリングに上がったDDTの“大社長”高木三四郎。「感無量でした。言葉が出てこなかった」という。
まだ「自粛明け」ではない理由とは。
東京女子プロレスが属するDDTグループは、翌14日にも昼にDDT本隊、夜にガンバレ☆プロレスと板橋グリーンホールで大会を開催している。大会後、社長の高木三四郎は「普通の興行より3倍くらい疲れました」と語っている。
「気を使う点だらけですから。何がよくて何がダメか、分からない中でやるしかない。お客さんの入場は1m以上、間隔をあけて並んでもらいましたし、退場も席のブロックごと。選手には自由にやってもらって、お客さんにも自由に楽しんでもらいながら、主催者側は気を使いすぎるくらいでいいんだと思います」
女子プロレス団体アイスリボンは、6月6日から恒例の道場マッチを「有観客興行」としてリスタートさせた。取締役選手代表の藤本つかさは、入場してすぐに無観客との違いを肌で感じたそうだ。
「熱が違いました。純粋に温度が高かった。それで“ああ、人がいるんだ”って。プロレスラーってそういうことが分かる体なんですね(笑)。もちろん、前と同じ状況ではないです。ウチで言えば、団体の魅力である客席への“握手回り”ができませんし。そういうことまで全部できるようになった時が本当の“自粛明け”でしょうね」
現場での実感からすると、キャパの半分の客入りは「とりあえずはこれくらいでいいんじゃないか」と思えるものでもあった。“これまで通り”の超満員の状態で2時間半なり3時間、椅子に座っているのは、それこそ皮膚感覚として“きつい”ような気がする。しかし客席数限定の興行では、団体にとっては採算ラインの問題も出てくる。
海外ファン向けの無観客試合配信も。
それでも「無」と「有」の違いは大きい。
「リングに上がって客席を見渡した時に、知っている(ファンの)顔が見えて本当に安心しました。みんな健康でいてくれたんだって。当たり前だと思っていたことが、こんなに嬉しいなんて」と渡辺。
藤本は「たとえ50人でもお客さんがいる状態は、無観客試合とは違いますね。お客さんに応援されることで痛みが緩和されるし、もっと頑張ろうという気持ちになれる。闘いながら“1人じゃない”と実感できるんです」と言う。
無観客試合で得たものもある。新規参戦選手が激増したノアをはじめ、タイトル争いなどリング上の“ストーリー”が動き続けたことは「有観客」に向けての加速につながった。
DDTは無観客試合で映像的な実験を毎回、行なってきた。高木は「それは今後も続けていきたい」とコメントしている。オンラインサイン会などのファンサービスも、やめる理由はない。日本在住のレギュラー選手クリス・ブルックスが海外向けの無観客試合をプロデュースしてもいる。配信は7月6日、月曜日の午前中。つまりアメリカの日曜夜だ。
「続けていきたいものはたくさんあります。アイディアひとつでプロレスの可能性を広げていけるはず」(高木)