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「ミスありき」で社会が回るドイツ。
サッカーにも繋がる自立性と考え方。
posted2020/06/25 19:00
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
日本に一時帰国すると、その機能性に改めて驚かされることが今でもある。
例えば新幹線が秒単位で時間通りに運行され、決められた場所に正確に止まる。仕事の用事で予定の5分前に着くと多くの場合、相手はその場所にいる。ファミレスに入るとテーブルにボタンがあって、ほぼ待つことなく注文することができる。店員さんは常ににこやか。日本社会のあらゆることが丁寧にマニュアル化されており、ズレがない。その流れに乗っていれば、物事はスムーズに進行していく。
ここドイツでは、そんなふうにはいかない。
例えばドイツ版新幹線と言われるICE(インターシティエクスプレス)は、時間通りに来る方が珍しいとドイツ人が揶揄するほど。ちなみに僕自身のレコードは260分遅れだ。しかも真冬の寝台列車待ちでホームの気温はマイナス10度。せめて遅延時間が正確なら駅構内の多少暖かいところで待てるが、掲示板にはなぜか「1時間以上の遅延」と、この上なく曖昧な表示しかされていない。
駅員の姿も見えないので、ホームから離れることもできない。サッカーのスタジアム取材用に十分な防寒着を持ってきていて助かったと、ホッとした自分が悲しくなる。
さすがに260分の遅延となると例外的ではあるが、普段から5分遅れは当たり前、20~30分遅れは許容範囲といった趣だ。もちろん、人的ミスはないほうがいい。滞りなくスムーズにいくよう、ドイツでもそれぞれがしっかり取り組もうとしているはずだ。
「ミスありき」で問題なく回る?
ドイツ社会にも当然マニュアルはある。ただ、その一方でマニュアル通りに行うことが100%正しいわけではないと、多くの人が思っている。だからマニュアルの一本鎗ではなく、状況に応じて柔軟に対応できる能力が求められる。
僕らは人間だ。誰でもミスをするし、いつもうまくいくわけではないことを知っている。
受け止める側にも事情や感情があるから“さすがに許せない!”ということもあるし、言い争いになることもある。しかしドイツにおいてミスが起きても「しょうがない」と受け入れる人が多く感じる。言い換えると、ドイツ社会は「ミスありき」で問題なく回っているのだ。