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「ミスありき」で社会が回るドイツ。
サッカーにも繋がる自立性と考え方。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2020/06/25 19:00
近年、育成年代でも存在感を見せるドイツ代表。社会全体の在り方を見ても興味深い点がある。
小学校で起きた、ある先生の話。
サッカーから離れるが、息子らが通う小学校で、1人の先生に保護者の不満が大きくなった時期があった。
そのA先生は授業で子ども同士が少し話しただけでイライラしたり、大声で叱りつけることが増えている――そんな噂とともに「首根っこをつかまれて怒鳴られた」、「腕をつかまれて怒られた」という子どもからの訴えが届くようになったのだ。
保護者会で、クラス担任の先生が改めて“子どもたちからどんな話を聞いているか”と質問すると、お母さん、お父さんからの批判が続いた。
「子どもを注意するのはわかるが、手を上げるのはありえない」
「今のままなら、子どもをA先生の授業に出すことはできない」
担任の先生は校長先生と相談すると約束し、その場は一応終息した。どうなるのかなと思っていたら、しばらくして担任の先生から連絡があった。
保護者会翌日、校長と担任、A先生の3人で面談したという。
そこで校長先生は基本的に第三者の立場でかじ取りをする役を担った。A先生には起きたことと現状抱えている問題について正直に証言してもらい、担任に今後どのようにするのが望ましいかを相談したそうだ。
先生の現状を理解して最良の対応を。
実は、小さな子どもを持つA先生はプライベートで問題を抱えており、そのストレスに苦しんでいたという。自分でも子どもたちに強く当たってしまう自覚はあると反省していたが、子どもたちが話を聞かなかったり、ふざけることにイライラしてしまったのだという。普段なら冷静に対処できるはずが、できない精神状態になっていたのだろう。
ただしA先生は“あってはならないこと”だと自分のミスを認め、謝罪した。この話し合いの後、校長先生はしばらく配置転換することを提案した。子どもたちとの衝突の可能性が高いクラスの担当を外れ、A先生の負担を少なくする案だった。
現状を乗り切るために頑張れ――そう言ったとしても、本人のキャパシティ以上の負担があれば、大人であっても頑張りようがない。ならば問題を解決するためには、頑張りが改善につながるように整理するのが大事ではないか。この件で強くそう思った。
なお周りからの理解を経たA先生は、一番大きかった負担から解放され、本人も関わり方を改めたことで、落ち着きを取り戻した。
しばらくすると、子どもたちからも「もう大丈夫だよー」と、A先生の授業が楽しくなっていると聞くようになった。保護者も学校側の対応に満足し、それ以降は大きな不満の声はない。