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「ミスありき」で社会が回るドイツ。
サッカーにも繋がる自立性と考え方。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2020/06/25 19:00
近年、育成年代でも存在感を見せるドイツ代表。社会全体の在り方を見ても興味深い点がある。
有望株がそろうU17チームでのこと。
話をサッカー指導に戻すと、僕自身にも同じような経験がある。
2シーズン前、僕がフライブルガーFCのU16監督を務めていた頃、選手との距離感がうまくいかない時期があった。
選手たちのクオリティは高く、ブンデスリーガ育成アカデミーでのプレー歴があったり、すでにスカウティングでチェックされていたりする選手も多かったのだが、それぞれ我が強過ぎて、言い争いや文句の言い合いは日常茶飯事だった。
ドイツをはじめヨーロッパでは上から押し付けるような高圧的指導はNGとされており、指導者には選手のモチベーションを高めつつ、チームとして戦う大切さを植え付けていく手腕が絶対的に求められる。
荒々しい才能の塊をどう導けばいいのか、僕はシーズンを通して試行錯誤を繰り返し、アシスタントコーチと協力しながら最終的には1学年上のU17リーグで優勝できた。ただ、時にはうまくいかないことに悩み、打ちひしがれることもあった。
しかしシーズン終盤のある日、クラブの指導者全員が集まったコーチ会議が催され、その場でトップチームの監督が僕のことを例に挙げてこんな話をしてくれた。
「指導者は1人で何かを成し得ようとし過ぎてはいけない。育成は長期的な取り組みだ。苦しんでいる仲間を支え合える関係性がクラブとして大切だと思っている。今季、監督室でキチが難しい顔をしているのを何度か見たことがある。そしてそんなキチの話を聞いて相談に乗って、助けていた仲間がいた。
我々クラブは指導者の良し悪しをチームの成績で見たりはしない。どのように取り組み、どのように向き合い、どのように導こうとしているのか。
うまくいかないとき、ミスをしたとき、どう改善していくのか。それを見定めていくことが大事だと思っている。そこが正しくできていたら、選手は成長していくことができるはずなんだ」
ミスが起きたらどう対応するか。
ミスやうまくいかないことを、そのまま放置していてはダメだろう。反省する気持ちや次はうまくいくように頑張る気概はなければならない。また修正、改善するためのルール作りや規律も大切だ。
一方でミスは起こるもの。その上でミスが起きたらどう対応するのか、再びミスが起こらないようにどう対処すべきか。それを考えるのが大事なのだろう。ミスを隠したり、ごまかそうとしたりするのは、賢くない。
ドイツではミスを恐れず、気にせず、自立的に取り組む子どもが多い。それは、大人がそういった空気感のなかで生活している姿を目の当たりにしているからなのだろう。だからこそ、ドイツにおけるミスとの向き合い方には、とても大切なメッセージがあるのではないか――そう感じている。