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野村野球の継承を誓う高津新監督。
ヤクルトを導くための“武器”とは?
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph byKyodo News
posted2020/06/25 08:00
開幕2戦目で勝利を挙げた小川からウイニングボールを受け取る高津新監督(右)。
「もっと野村監督に教わりたかった」
こうして6月19日、ついに2020(令和2)年のペナントレースが始まった。神宮球場に中日を迎えた雨中の開幕戦は4時間49分の激闘の末に敗れ去った。初陣を飾ることはできなかったが、翌20日の第2戦では小川泰弘の好投で「監督初勝利」を手にした。試合後、殊勲の小川と並んでウイニングボールを手にしながら満面の笑みを浮かべる高津は本当に嬉しそうだった。
開幕当日のサンケイスポーツでは「改めて『野村監督の野球を継承しなければいけない』という思いを強くしています」と述べ、監督初勝利を手にした翌21日付のスポニチに掲載された独占手記では「『監督・高津臣吾』としての初勝利は、野村克也監督に報告したいと思う」とつづり、改めて「まだ監督としては未熟なので、もっと野村監督にはいろいろ教わりたかった」と続けている。
同じことはできなくても、継承を。
野村克也が生きていれば……。この思いをもっとも痛切に感じているのが高津だろう。今となっては、それはかなわない。それでも、「野村野球を継承していく」と繰り返し口にしているように、高津の胸の内には常に恩師の姿が宿っている。
「野村さんと同じことはできない」と苦笑いを浮かべつつ、それでも次代に「野村野球」を伝えていく使命を感じていることは間違いない。ファンに対して「応燕」という言葉を使って真摯なメッセージを伝えたように、選手たちにも適切なタイミングで飛躍のきっかけとなるような言葉を投げかけていくことだろう。
高津は言う、「言葉は武器だ」と。そして、次のように続けた。
「言葉一つで人をやる気にさせたり、逆にやる気を失わせたりもできます。軽はずみなひと言が人を傷つけ、思わぬ事態を招くこともあります。もちろん、ほんのひと言が人生を好転させるきっかけにもなります。だからこそ、言葉は武器なんです」
それは、言葉の持つ力を十分に知る者の発言だった。本人の言うように、言葉は武器だ、大切な戦力だ。人間を生かすも殺すも言葉次第だ。
自らのことを「僕はペラペラしゃべりすぎるから、言葉に重みがない」と苦笑いする高津新監督。それでも、野村には野村の言葉があったように、高津には高津の言葉がある。恩師同様、言葉の巧みな使い手として、その手腕に期待したい。