スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
オーナーの意向とコミッショナー。
MLB版「三方一両損」を提案する。
posted2020/06/20 09:00
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph by
Getty Images
2020年の大リーグ開催が、こじれにこじれている。嫌な空気が流れはじめたのは5月からだったが、ここまでややこしくなるとは思わなかった。
ビリオネア対ミリオネアの争いが醜悪でも、野球特有の楽天主義と復元力が働き、なんとか妥協点を見いだしてくれるのではないか、と考えていたのだ。
ところが、事態はご承知のとおりだ。
強制的開催権を持つはずのロブ・マンフレッド・コミッショナーが「やれるかやれないか、私にはもうわからない」と弱音を吐くところまで、事態は行き詰まってしまった。なぜ、こうもこじれたのか。
「俸給は試合数に比例した額」のはずが……。
そもそものはじまりは、3月26日に交わされた「合意」にあった。
この日、コミッショナー(を頂点に形成されるMLB機構)と大リーグ選手会は、「野球のシーズンを開催するのなら、俸給は試合数に比例した額にする」という大枠で基本的に合意した。
その他もろもろの条件は、「無観客」という方針が定まったあとで調整されるはずだった。
通常、大リーグの1シーズンは162試合(ポストシーズンを除いて)で開催される。それが仮に82試合の短縮シーズンという形を取るとしたら、選手の俸給は162分の82となる。これが計算の基本で、非常にわかりやすい。
そこへ割り込んだというか、異議を唱えてきたのが、球団のオーナーたちだった。
オーナー側は、「試合数に比例する俸給は、とても払えない」と難色を示した。
「テレビの放映権は確保できるが、無観客の場合は、入場料をはじめとする球場収入がなくなるので、総収入は40パーセント前後減少する。それに応じて選手の俸給も、もっと減らす必要がある」と主張したのだ。
具体的には、興行総収入が約100億ドルから約60億ドルに減るので、選手の年俸総額(約40億ドル)も大幅に減らしてほしい、という言い分である。