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人種差別と戦うレブロン、カリーら。
NBAにも受け継がれるアリの信念。
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byAl Bello/Getty Images
posted2020/06/12 17:00
人種差別に対するプロテストに参加するNBAの選手たち。過去に抗議のシャツを着た姿を見せたレブロン・ジェームズもTwitterで現状を嘆いた。
人種差別撤廃を訴えたアリ。
今回の全米的な騒ぎの中で、ふと思い返したのが2016年に元世界ヘビー級王者モハメド・アリが逝去したときのことだ。アリが亡くなったのは、ちょうどNBA ファイナル第1~2戦間の休養日。そこでは多くのNBA選手、関係者が追悼の言葉を送り、“ザ・グレーテスト”の死を悼んだ。カリーは「人に何を言われようと、自分の立場を生かし、信念を口にしたアリはお手本となる人物だった」と述べ、レブロン・ジェームズ(ロサンジェルス・レイカーズ)も「リング上での功績を抜きにしても、アリこそが史上最高だ」と熱く語り残したのだった。
黒人の人権に関するアスリートの運動は長く続いてきたが、現役時代から人種差別の撤廃を訴えかけたアリの姿勢は特筆される。有名なのは1967年、「俺にはベトナム人を殺す理由はない。ベトコンにニガーと呼ばれたことはない」という言葉を吐き、ベトナム戦争への徴兵を拒否したことだ。
アリが活動したのは、まだ黒人がメジャースポーツのスーパースターになるなど考えられなかった頃。以降、時代は徐々に変わり、一時はアメリカ政府と対立したアリはいつしか公民権運動に邁進する英雄とみなされるようになった。この流れを見れば、依然として人種差別による事件が絶えないアメリカで、NBA選手たちが元世界王者を崇拝する理由がわかってくるはずだ。
2014年も抗議のシャツを着たレブロン。
レブロンもアリから大きな影響を受けたことで、黒人アスリートの代表であることを意識し、多くの社会的活動に関わってきた印象がある。
2014年に黒人男性がニューヨーク市警の警官に絞め殺された事件でその警官が不起訴になった際には、同僚たちとともに「I can’t breath(息ができない)」と書かれたシャツを着てウォームアップを行った。その2年前にフロリダで黒人少年が射殺された際にも、少年と同じフード付きのスウェットを纏い、当時所属していたマイアミ・ヒートの仲間たちと写真撮影した。
「アメリカはなぜ俺たちも愛してくれないのか?」
今回のフロイドさんの死亡事件後も、レブロンはすぐにそうツイートしていた。ネガティブな反響を恐れず、自らの立場を理解した上で声を挙げ続けている。レブロン、カリーのようなスターが行動することで、リーグ全体が差別の問題に発言しやすい雰囲気も確実にできている。