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ごっつぁんゴーラーは育成できるか?
インザーギの恩師3人と本人に聞いた。
posted2020/06/13 19:00
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph by
Getty Images
長い間、疑問に思っていたことがある。
フィリッポ・インザーギは育成により生み出せるのか、ということだ。
この痩せたイタリア人の姿を初めて目にしたのは、彼がまだパルマでプレーしていた頃のこと。1990年代も半ばを過ぎ、ファンタジスタやストライカーら、攻撃者のためのスペースは減少しつつあった。
そんなカルチョの守備組織の中を、インザーギという選手はとても巧みに、縫うようにすり抜け、いつだって(どんな形であるにせよ)ネットを揺らした。顔が常にゴールの方向を向いた、少し猫背のその背中を、今もよく覚えている。
説明不可能で、どこか野性的な得点感覚。
昨秋のチャンピオンズリーグ、ミラン対レアル・マドリー戦。インザーギは後半15分にピッチに立つと、あれよという間に2点を決めてしまった。
ズラタン・イブラヒモビッチの洗練された技術も、アレシャンドレ・パトの飛ぶようなスピードも持たない。
それでも彼はいつもその瞬間に、その場所にいる。説明不可能で、どこか野性的なあの得点感覚。インザーギはそれをどのようにして身につけたのか。
近代サッカーの中でも極めて特異ともいえるこのストライカーは、はたして作り出すことができるのか――。
ジョバンニ・ルビーニは27年前の春のことを、いまでも時々思い出す。
彼はクラブの一介の職員だったけれど、人手が足りないから、といういかにも小クラブ的な理由により、若手発掘や育成の仕事も任されていた。
「よく晴れた朝だった。当時、私はピアチェンツァ近郊で行なわれる少年の試合を視察していたんだ。才能ある少年を連れてきて育て、時が来ればより大きなクラブヘと売り渡す。1984年の3月31日、あの朝もそのためにいつものように出かけていったんだ」